息子は社会人3年目。
特別贅沢している様子もないし、
普通に仕事をして、普通に生活している。
正直、今まで家にお金を入れてもらったことはなかった。
でも、そろそろいいかなと思った。
だから軽く言っただけだった。
「4月から、月1万円でいいから家に入れてくれる?」
本当に、それだけ。
負担にならない程度でいいし、
“責任を持つ”っていう意味でも、
そのくらいは…という気持ちだった。
息子は「うん」とだけ言って、
特に何も変わらない様子だった。
だから、そのまま忘れていた。
そして今日。
何気なくリビングに行った時だった。
テーブルの上に、封筒が置いてあった。
見覚えのない封筒。
「なにこれ?」
そう思って手に取った。
中を開けた瞬間、手が止まった。
――お札。
しかも、明らかに多い。
一瞬、理解できなかった。
何かの間違い?
でも、封筒の中にはメモが入っていた。
「これまでの分」
たったそれだけ。
余計に意味が分からなかった。
慌てて数えた。
1枚、2枚……
途中から、指が震えた。
「……え?」
気づいた時には、64万円になっていた。
思わず座り込んだ。
頭が追いつかない。
「これまでの分」って、何?
そんな話、したことない。
むしろ、こっちから何も言ってこなかった。
なのに。
どういうつもりで、これを置いたのか。
しばらくして、息子が帰ってきた。
「ねえ、これ……何?」
封筒を見せた。
息子は少しだけ照れた顔をして、言った。
「だから、これまでの分」
軽い口調だった。
でも、その中身は軽くなかった。
「そんなの、頼んでないよ」
正直な気持ちだった。
むしろ、受け取っていいのか分からなかった。
息子は少しだけ考えてから言った。
「今までさ、全部出してもらってたじゃん」
その一言で、全部思い出した。
学費。
部活。
塾。
食費。
何も言わずに出してきたもの。
当たり前だと思っていたこと。
「だからさ、働けるようになったから、少しずつでも返そうと思ってた」
涙が出そうになった。
そんなこと、考えてたんだ。
こっちは“1万円でいい”って言っただけなのに。
「でも、こんなにいらないよ」
そう言うと、息子は笑った。
「まだ全然足りてないと思うけどね」
その言い方が、あまりにも自然で。
余計に胸に来た。
夜、夫にも見せた。
封筒を見た瞬間、固まっていた。
「……これ、受け取れんだろ」
震えながら言っていた。
「なんか怖いわ……手切れ金みたいで」
冗談みたいなことを言っていたけど、
気持ちは分かる。
それくらい重い金額だった。
結局、そのまま使うことはできなかった。
ひとまず貯金することにした。
きっと、息子のために使う日が来る。
でも、どうして64万円なのか。
それだけは、最後まで分からなかった。
細かく計算したのか、
ただの区切りなのか。
本人に聞いても、はぐらかされた。
「なんとなく」って。
でも、その“なんとなく”の裏に、
どれだけ考えた時間があったのかと思うと。
また涙が出そうになった。
正直、誇らしかった。
同時に、少し寂しかった。
ああ、この子、ちゃんと大人になったんだなって。
これって、
受け取るべきなのか、
それとも返すべきなのか。
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