98,820円。
あの日、そのお客さんが支払った合計金額。
そして——
私の取り分は、9,882円だった。
残りの88,938円は、店。
でも問題は金額だけじゃない。
私は最初から、騙されていた。
高校生だった私は、「普通のメイドカフェの接客」と聞いて体験入店した。
「お酒は出さないし安心だよ」
「制服を着て接客するだけ」
そう説明された。
私はファミレスのような接客を想像していた。
でも実際は違った。
カウンター越しにお客様と長時間会話を続け、
“自分のドリンク”を注文してもらい、
その売上の10%だけが給料になる仕組みだった。
時給はない。
売れなければゼロ。
私は単なる店員ではなかった。
“会話そのものを商品として提供する側”だった。
高校生だから当然お酒は飲まない。
出されるのはシャンメリー。ノンアルコール。
でも値段は異常だった。
市販なら数百円の飲み物が、
店では数万円扱い。
それを、私が勧める。
真夏の炎天下、店の前に立たされて
「いかがですか〜」
知らない男性に声をかける。
その時点で違和感はあった。
でも「こんなものかな」と思っていた。
あの日、その人が来た。
強引でもなく、下心を見せるでもなく、
ただ落ち着いて会話をしてくれる人だった。
そして言った。
「今日は最後までいるよ」
彼は延長を続け、
私のドリンクを何度も注文した。
レジに表示された合計は——98,820円。
店内がざわついた。
「今日すごいじゃん」
「大当たりだね」
私は正直、嬉しかった。
“これだけ売れたなら、今日は稼げる”
そう思っていた。
でも営業後、渡された封筒の中身は9,882円。
98,820円の10%。
残り88,938円は店。
彼は帰る前、レシートを指でなぞりながら聞いた。
「この金額で、いくらもらえるの?」
「……9,882円です」
彼は静かにうなずいた。
「やっぱりね」
そして続けた。
「君、高校生だよね?
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