朝のスーパーで、思わず足が止まった。
弁当売り場に人だかりができている。
何事かと思って近づくと、みんな同じ商品を手に取っていた。
四元豚ロースかつ弁当。
しかも値段が――
43円(税込46円)。
私は思わず二度見した。
安いとかいうレベルじゃない。
お茶より安い。
おにぎりより安い。
「いや、絶対に間違いだろ……」
そう思った。
でも値札には確かに43円と書かれている。
店員も普通に補充している。
レジも止まっていない。
だったら特売なのかもしれない。
そう考えた人が多かったのだろう。
気づけば近所のお年寄りも、出勤前の会社員も、次々とかごへ入れていく。
中には5個、10個と積み上げている人までいた。
私も迷った末に1個だけ購入した。
レシートを見る。
ちゃんと46円。
何の問題もなく会計は終わった。
ところが店を出ようとした瞬間だった。
「お客様、少々お待ちください!」
後ろから慌てた声が飛んできた。
振り返ると店員が走ってきた。
顔色が真っ青だった。
「申し訳ございません!」
「値札を付け間違えておりました!」
私は心の中でやっぱりなと思った。
店員は続ける。
「本来は430円の商品なんです」
「差額をお支払いいただけませんでしょうか……」
私は一瞬言葉を失った。
会計は終わっている。
レシートもある。
それなのに後から追加請求?
私はレシートを見せながら言った。
「でも、この金額で購入していますよね?」
すると店員は困った顔をした。
しばらくして責任者らしい男性が出てきた。
最初はとても丁寧だった。
「こちらのミスで申し訳ありません」
「できればご協力いただけませんか」
しかし断る人が増えるにつれ、空気が少しずつ変わっていった。
ある店員はため息をつきながら言った。
「このままだと私たちが弁償することになるんです……」
別の店員も言う。
「返金していただくだけでも助かるんですが……」
そして最後に言われた言葉が忘れられない。
「正直、少し冷たいと思います」
「分かっていて買われたんですよね?」
「そんなに得したいですか?」
私は耳を疑った。
確かに43円なんて異常な価格だ。
誰だって間違いだと思う。
でも、それならなおさら値札を出した側の責任ではないのか。
私は値札を偽造したわけでもない。
レジを騙したわけでもない。
ただ店が表示した価格で買っただけだ。
なのにいつの間にか、
ミスをした側が被害者になり、
買った側が悪者になっていた。
周囲でも口論が始まった。
「店の責任だろ」
という人もいれば、
「普通は返してあげるだろ」
という人もいる。
売り場は完全に混乱状態だった。
結局、その後この件は市場監督機関まで話が及んだ。
結果は明確だった。
値札表示には契約上の効力がある。
購入時点で売買契約は成立している。
すでに販売された商品について差額請求はできない。
店舗の損失は店舗側が負担する。
法律上の結論はシンプルだった。
だが、この騒動で私が一番驚いたのは法律ではない。
人の態度だった。
ミスをした瞬間は平謝りだった人が、
損失が現実になると、
「協力しないあなたが悪い」
という話にすり替わっていく。
もちろん、43円が間違いだと分かっていて大量購入した人に違和感を覚える人もいるだろう。
その気持ちも分かる。
だが、それとこれとは別の話だ。
店のミスは店の責任。
客の善意は義務ではない。
私はそう思う。
皆さんならどうしますか?
43円で買った弁当。
会計後に呼び止められて、
「私たちが弁償することになるんです」
と言われたら、
差額を払いますか?
それとも、そのまま帰りますか?
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