仕事帰りのスーパーだった。
夕飯のおかずを探していると、値引きシールが貼られた鶏ささみ梅しそ巻きが目に入った。
「20%引」
最近は物価も高い。
こういう値引き商品を見ると、つい手が伸びる。
私は迷わずカゴに入れ、そのままレジへ向かった。
前には数人並んでいた。
スマホを見ながら順番を待ち、ようやく自分の番になる。
店員が商品をスキャンした瞬間だった。
レジの画面を見た店員の動きが止まった。
何かがおかしい。
そう思った次の瞬間、店員が小さな声を漏らした。
「えっ……?」
私は画面を覗き込んだ。
そして固まった。
80,591円。
意味が分からなかった。
何度見ても八万円だった。
たった一パックの総菜である。
私は思わず笑ってしまった。
「これ、車でも付いてくるんですか?」
だが店員は笑っていない。
周囲の客もレジを覗き込み始めた。
責任者が呼ばれた。
レジを打ち直しても結果は同じ。
バーコードを読み取るたびに八万円が表示される。
責任者は額に汗を浮かべながら言った。
「申し訳ございません。少々お時間をいただけますでしょうか」
調査が始まった。
私は財布の中身を確認した。
現金は一万円もない。
もし気付かず会計が進んでいたらどうなっていたのだろう。
責任者が商品を持って奥へ消えた。
十分ほど経った頃だった。
ようやく原因が判明した。
問題は商品ではなかった。
問題は値引きシールだった。
本来は20%引きを示すバーコードのはずが、なぜかシステム上で80,591円という異常な金額情報になっていたのだ。
責任者は深く頭を下げた。
「大変申し訳ございません。こちらの設定ミスでした」
私はその場で会計を取り消してもらった。
これで終わりだと思った。
ところが翌日、さらに驚くことを知る。
スーパーの入口に大きな告知が貼られていたのだ。
そこには、
「値引きシール設定ミスによる販売についてのお詫び」
と書かれていた。
詳しく読むと、私が気付く前にすでに同じ商品が二件販売されていたらしい。
しかも購入者は誰もその場で異常に気付かなかった。
店舗は緊急で売り場から商品を回収。
レシートを持参した購入者には返金対応を行うと告知していた。
店内放送まで流れていた。
あの時、レジで止まらなければ。
あのまま誰も気付かなければ。
被害はもっと広がっていたかもしれない。
たった一枚の値引きシール。
たった一つの設定ミス。
だがその小さなミスが、店全体を巻き込む騒動になった。
私は帰り際、入口の告知をもう一度見た。
便利なシステムほど、人は安心してしまう。
だが最後に異常を見つけるのは機械ではない。
違和感を覚えた人間なのだ。
あの日の八万円表示を見た瞬間の衝撃は、きっとしばらく忘れられないと思う。
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