朝の吉野家って、独特の空気がある。
まだ街が完全には起ききっていない時間。
店の外は少しひんやりしていて、ガラス越しの店内だけがやけに明るい。
カウンターには出勤前らしいスーツ姿の人、隅のテーブルには無言で新聞をめくる年配の男性。
味噌汁の湯気と、焼いた鮭の匂いがゆっくり混ざっていて、いかにも「いつもの朝」って感じだった。
その日も、私は朝定を食べていた。
特別な日じゃない。
ただ、いつも通りの朝。
いつも通り注文して、いつも通り食べて、いつも通り会計する。
そこまで全部、何の引っかかりもなかった。
問題が起きたのは、食べ終わってレジに立ったときだった。
私は慣れた手つきで、株主優待券を出す。
それから間を置かずにジェフグルメカードも添えた。
もう何度もやっている流れだ。
自分の中では、ほとんど呼吸みたいなものだった。
すると、レジにいた若い店員さんが、券を見てぴたりと手を止めた。
まだ新人なのか、あるいは自信満々なのか。
その表情は妙に固くて、声だけがやけにきっぱりしていた。
「こちら、お釣りは出ません」
その一言が、朝の静かな店内に妙にはっきり響いた。
私は一瞬、聞き間違いかと思った。
でも店員さんは、こちらを見たまま、少し顎を上げている。
言い切った顔。
疑う余地なんてありません、という顔だった。
いや、出る。
それは知っている。
というか、何度も出してもらっている。
だから私は、できるだけ柔らかく言った。
「いえ、ジェフはお釣り出ますよ」
すると店員さん、ほんの少し眉を寄せて、すぐ返してきた。
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