ガソリンスタンドで、思わぬトラブルになった。
その日、私は仕事帰りにいつものセルフスタンドに寄った。
価格表示は
レギュラー 158円/L
最近の相場を考えれば、まぁ普通だ。
車を給油レーンに停めて、タッチパネルでレギュラーを選択。
油枪を取る。
その時、確かに表示は 158円 だった。
私は何も考えず、普通に給油を始めた。
半分くらい入れたところで、近くを巡回していたスタッフのおっちゃんが声をかけてきた。
「お兄さん、ギリギリでしたね」
私は首を傾げた。
「え?何がですか?」
おっちゃんは少し笑って、
「まぁ…あとで分かりますよ」
そう言って別のレーンへ歩いていった。
その時は意味が分からなかった。
給油が終わり、レジで精算する。
するとレジ画面に表示された金額を見て、私は固まった。
「…あれ?」
金額が明らかに高い。
私はレシートの表示を見た。
単価は――
191円/L
になっていた。
私は思わず店員に言った。
「すみません、これおかしくないですか?」
若い店員が顔を上げた。
「どうされました?」
私はレシートを指差した。
「私、158円の時に給油しました」
店員は少し驚いた顔をした。
「え?今は191円になっています」
私は言った。
「それは知ってます」
「でも、給油を始めた時は158円でした。」
店員はレジ画面を確認しながら言った。
「少々お待ちください」
そして奥に声をかけた。
「店長、すみません」
奥から店長らしい男性が出てきた。
事情を説明すると、店長は少し考えた。
「今日は価格変更がありまして…」
「システムが更新されたのが、ちょうどその時間だった可能性があります」
私は言った。
「でも、給油開始はその前です」
「給油機の表示も158円でした」
店長はうなずいた。
「確認します」
その時だった。
横から声がした。
「店長」
さっきのおっちゃんだった。
おっちゃんは言った。
「このお客さん、158円の時に入れ始めてましたよ」
店長が振り向く。
「見てたの?」
「巡回してたんで」
おっちゃんは笑った。
「だから言ったんですよ」
「ギリギリでしたねって」
店長は少し考えた。
そして給油機の履歴を確認した。
数分後。
店長が戻ってきた。
「お待たせしました」
そして言った。
「給油開始時間を確認したところ、価格変更前でした」
私は少し安心した。
店長は続けた。
「本来は給油開始時の価格を適用します」
「申し訳ありませんでした」
店長はその場でレジを修正した。
新しいレシートが出てきた。
単価は
158円/L
になっていた。
さらに店長は言った。
「今回はご迷惑をおかけしましたので」
「こちら洗車券をお渡しします」
私は思わず笑った。
「ありがとうございます」
帰り際、さっきのおっちゃんが声をかけてきた。
「言ったでしょ」
「ギリギリでしたね」
私は笑った。
もしあの時、
何も言わなかったら。
私は普通に
191円で払っていた。
車に乗りながら思った。
世の中、
言わないとそのまま流されることが多い。
でもあの日だけは違った。
あのガソリンスタンドで、
一番 ギリギリだったのは
きっと――
あの値上げのタイミングだった。