女性トイレの掃除を、新人の男子大学生にお願いした日のことだった。
十分ほどして彼がレジへ戻ってきたが、顔色が明らかにおかしい。
「どうしたの?」
そう聞くと、彼は目を泳がせながら小さな声で言った。
「あの……女性の……あれが床に……。」
それ以上言えなくなってしまった。
私はすぐに事情を察し、「もう大丈夫。レジお願いね」と伝え、代わりに女性トイレへ向かった。
個室へ入ると、使用済みの生理用ナプキンが紙にも包まれず、そのまま床に放置されていた。
私はため息をつきながら片付けを済ませた。
レジへ戻ると、彼は申し訳なさそうに「すみません、僕がちゃんとできなくて……」と頭を下げた。
「謝るのはあなたじゃないよ。こんなの初めて見たら誰だって困る。」
そう伝えると、彼は少し安心したように笑った。
ところが翌日、本部へ一本のクレームが入った。
「女性トイレが汚すぎる。」
「掃除をちゃんとしていない店だ。」
店長が内容を確認すると、新人は青ざめながら「僕のせいですよね……」と肩を落とした。
しかし店長は首を横に振った。
「昨日の清掃記録を確認しよう。
」
店内にはトイレの巡回記録が残っている。
さらに防犯カメラで利用時間を照らし合わせると、驚きの事実が分かった。
クレームを入れた女性本人がトイレへ入り、数分後に出てきた直後、巡回した私が床へ放置されたナプキンを片付けていたのだ。
つまり、床へ放置した本人が「トイレが汚い」と苦情を入れていたのである。
店長は映像と清掃記録を添えて本部へ報告した。
「清掃不備ではありません。原因は利用者のマナー違反です。」
数日後、その女性が再び来店した。
店長は営業中にもかかわらず静かに声を掛けた。
「先日いただいたご意見についてですが、店内の記録を確認した結果、状況はすべて把握しております。」
その女性は一瞬で表情が変わった。
何か言い返そうとしたものの、店長が「防犯カメラと清掃記録も保存しております」と続けると、何も言えなくなり、小さく「……すみません」とだけ言って店を後にした。
店長は新人に向かって笑いながら言った。
「悪いのは君じゃない。掃除する人への思いやりを忘れた人の方だから。」
その言葉を聞いた彼は、ようやく安心したように笑顔を見せた。
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