「男の子を産んだら4000万円やる」
お見合い相手は真顔でそう言った。
最初は聞き間違いかと思った。
でも違った。
彼は本気だった。
その日のお見合いは最初から違和感だらけだった。
席に着いて10分もしないうちに、
「僕、男女平等派なんですよ」
と得意げに言った。
私は少し安心した。
まともな人かもしれない。
そう思った。
ところが次の瞬間。
「だから会計は完全に割り勘でお願いします」
と言われた。
別に割り勘は嫌じゃない。
だから私は普通に答えた。
「はい、大丈夫ですよ」
すると彼は明らかに安心した顔をした。
今思えば、
その瞬間に舐められたんだと思う。
この女は押せる。
反論しない。
そう思ったのだろう。
そこからだった。
話がおかしくなり始めたのは。
「女って感情的ですよね」
「結局、女は男に養われたいんですよ」
「最近の女性は権利ばかり主張する」
「独立女性とか言うけど、結局お金ですよね」
私は何も言わなかった。
否定もしなかった。
途中から興味が湧いたのだ。
この人はどこまで本音を出すんだろうと。
すると案の定だった。
彼はどんどん調子に乗った。
まるで講演会でも開いているみたいに、
女性論を語り続ける。
そして話題は結婚になり、
やがて子供の話になった。
その時だった。
彼はコーヒーを一口飲みながら言った。
「僕ね、男の子なら4000万円出すんですよ」
私は聞き返した。
「え?」
彼は当然のように続ける。
「男は価値がありますからね」
「家を継ぐし」
「投資する意味がある」
そして笑いながら付け加えた。
「女の子だったら、そこまでかな」
私はしばらく黙った。
怒りより先に、
驚きが来た。
この人は冗談で言っているんじゃない。
本気で言っている。
本気で人間の価値に値段を付けている。
私はゆっくりカップを置いた。
そして言った。
「じゃあ私が1億円あげるから――」
彼は少し笑った。
まだ余裕があった。
まだ自分が上だと思っていた。
私は続けた。
「お母さん殺してきて」
その瞬間だった。
彼の表情が止まった。
本当に止まった。
口が半開きのまま固まる。
目だけが私を見ている。
数秒。
店内の音だけが聞こえた。
隣の席の笑い声。
店員が食器を片付ける音。
でも彼だけが完全に静止していた。
「……は?」
ようやく出た言葉がそれだった。
私は黙って彼を見ていた。
すると彼の顔が少しずつ赤くなっていく。
「お前、頭おかしいのか?」
「何言ってるんだよ!」
「母親だぞ!」
ついさっきまでの余裕は消えていた。
私は静かに言った。
「そうですよね」
「あなたにとってお母さんは大事な人ですよね」
彼は怒鳴った。
「当たり前だろ!」
私は頷いた。
そして言った。
「でもあなたは今、自分の子供になるかもしれない女の子に値段を付けましたよね」
彼は黙った。
私は続けた。
「あなたにとっては母親が大切」
「でも誰かの娘は4000万円以下」
「その違いを説明してもらえますか?」
返事はなかった。
いや、
返事ができなかった。
彼はただ顔を真っ赤にして座っているだけだった。
私は席を立った。
会計はもちろん自分の分だけ払った。
最後まで彼は何か言っていた。
でも聞かなかった。
店を出ながら思った。
今日来たのはお見合いだったはずなのに、
私は結婚相手を探していたんじゃなかった。
女性を人間として見ているかどうか。
それを確認する面接だったんだなと。
そして結果は、
過去最悪だった。
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