カーシェアを使っていて、人生で一番「は?」と思った出来事がある。
その日、私は出張帰りで地方の駅にいた。東京行きの新幹線まで、残り40分。
駅前のカーシェアで借りていた車を、指定の駐車場に返却するだけだった。
正直、余裕だと思っていた。
しかし駐車場に入った瞬間、嫌な予感がした。
「……え?」
そこに停まっていたのは、カーシェアの車ではなかった。
普通の車だった。
しかもナンバーは「に」ナンバー。
カーシェアの車は普通 「わ」ナンバー だ。
つまり――
完全に関係ない車が停まっている。
しかもその車、やけに堂々と停まっていた。
駐車スペースの真ん中にきれいに収まり、さらに 車止めまで置いてある。
一瞬、頭が真っ白になった。
ここはカーシェア専用スペースだ。
契約者しか停められないはず。
なのに、普通の車が普通に停まっている。
私はスマホを見た。
アプリの返却画面。
「指定のステーションに返却してください」
と表示されている。
つまりここに停めないと、返却完了にならない。
私は時計を見た。
新幹線まで 35分。
周りを見た。
空きスペースはない。
満車だった。
私は仕方なくサポートセンターに電話した。
事情を説明した。
「指定のスペースに、関係ない車が停まっています」
するとオペレーターは言った。
「申し訳ありませんが、障がい者スペースなどには停めないでください」
私は言った。
「それは分かってます」
「でもここ満車です」
オペレーターは淡々と言った。
「お客様の方で空いている駐車スペースを探して停めてください」
私は言った。
「それだと返却できませんよね?」
オペレーターは少し沈黙して、
「その場合は別途ご相談になります」
と言った。
私は時計を見た。
新幹線まで30分。
もし返却できなければ――延長料金。
最悪、新幹線にも間に合わない。
私は周りを見た。
そして、あることに気づいた。
その迷惑車両の前。
スペースがギリギリ空いている。
私は車を動かした。
ゆっくりと。
その迷惑車両の前に――
ピッタリ停めた。
完全に出られない位置。
そしてアプリで返却操作。
返却完了。
私はそのまま駅へ向かった。
新幹線には無事間に合った。
これで終わりだと思っていた。
しかし翌日。
カーシェア会社から電話が来た。
「昨日の件ですが…」
「駐車していた車の持ち主から連絡がありまして」
私は聞いた。
「何ですか?」
オペレーターは言った。
「車が出られなかったため、損害が出たと…」
「お客様に責任がある可能性が――」
そこで私は言った。
「ちょっと待ってください」
「私は指定のステーションに返却しましたよね?」
オペレーターは黙った。
私は続けた。
「専用スペースに関係ない車が停まっていた」
「それをサポートに相談した」
「そして私は返却処理を完了している」
「つまり契約上、問題ありませんよね?」
電話の向こうで沈黙が流れた。
そしてオペレーターは言った。
「……確認いたします」
数秒後。
「お客様の返却手続きは正常に完了しております」
私は言った。
「じゃあ私には関係ないですね」
オペレーターは小さく言った。
「はい……」
電話を切ったあと、私は思った。
専用スペースに勝手に停める人間も迷惑だが、
一番怖いのは責任を押し付けようとする会社だ。
でも今回だけは違った。
私はルール通りに返却した。
だから最後に困ることになったのは――
あの迷惑車の持ち主の方だった。