地下駐車場に入った瞬間から、嫌な予感はしていた。
目の前のスペース、その隣の車が――
完全に線を踏んで、こっち側に食い込んでいる。
「うわ、最悪……」
思わず小さく舌打ちが出た。
正直、そのまま別の場所を探そうかとも思った。
でも時間もなかったし、空いているのはそこだけ。
仕方なく、慎重にハンドルを切る。
一回で入るわけがない。
切り返し、また切り返し――
「頼むから当たらないでくれよ……」
何度もミラーを確認しながら、
数センチ単位で距離を詰めていく。
隣の車にぶつけたら終わりだ。
こっちが悪くなくても、面倒になるのは目に見えている。
だからこそ、いつも以上に神経を使った。
そしてようやく――
きれいに白線の中に収まった。
「よし……」
安堵の息が漏れる。
左右のスペースも確認。
多少は余裕を残している。
これなら問題ないはずだった。
そう思って、エンジンを切り、ドアを開けた――その瞬間。
視界の端に、違和感が走る。
「……え?」
思わず二度見した。
自分の車のサイドミラーが、ありえない方向に折れ曲がっている。
いや、折れ曲がっているどころじゃない。
近づいて見た瞬間、血の気が引いた。
カバーは外れ、内部の配線がむき出し。完全に壊れている。
「は……?」
一瞬、理解が追いつかなかった。
さっきまで、あんなに慎重に停めたのに。
ぶつけた感触なんて、まったくなかった。
「いやいや、嘘だろ……」
頭の中で何度も再生する。
バック、停止、ミラー確認――
やっぱり、当てていない。
じゃあ、なんでこうなってる?
その時だった。
ちょうど隣の車の持ち主らしき男が、こちらに戻ってきた。
何食わぬ顔でドアを開けようとしている。
「すみません」
思わず声をかけた。
「これ、見てもらっていいですか?」
男はちらっとこちらを見て、ミラーを一瞥した。
「あー……」
軽くため息をつく。
「近かったんで、ちょっと当たっちゃったかもしれないですね」
その一言で、何かが切れた。
「いや、当たってないです」
はっきり言い返す。
「停めるとき、かなり余裕ありましたし」
すると男は、少しイラついたように眉をひそめた。
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