夫のスーツを洗濯に出そうとして、ポケットを確認しただけでした。
なのに、その中から出てきた一枚の紙で、私の結婚生活は一気にひっくり返りました。
くしゃくしゃに折られた、小さな手紙。
最初は、レシートか仕事のメモだと思いました。
でも広げた瞬間、手が止まりました。
そこには、丸い文字でこう書かれていたのです。
「ありがとう♡
すごく幸せだったよ。
早くあなたとの赤ちゃんがほしいって思ってる。
アパート生活、楽しみだね!!
いつもありがとう!」
一瞬、意味が分かりませんでした。
赤ちゃん?
アパート?
あなたとの?
私は、何度も読み返しました。
でも、何度読んでも、そこに書かれている意味は変わりませんでした。
夫には、私以外の誰かがいる。
しかも、その相手は夫と“赤ちゃん”や“アパート生活”の話までしている。
普通なら、その場で泣き崩れていたかもしれません。
夫に電話して、今すぐ帰ってこいと怒鳴っていたかもしれません。
でも不思議と、その時の私は妙に冷静でした。
なぜなら、最近の夫の様子は、確かにおかしかったからです。
スマホを絶対に裏向きに置く。
お風呂にまで持っていく。
以前は残業なんて少なかったのに、急に「仕事が忙しい」と言って帰りが遅くなる。
休日も「ちょっと用事」と言って、数時間だけ出かける。
そして何より、最近やたらと現金を下ろしていました。
私はずっと、違和感を見ないふりしていました。
夫婦だから。
疑うのはよくないから。
そうやって、自分に言い聞かせていたのです。
でも、紙は嘘をつきません。
その手紙は、夫がどれだけ隠していても、ポケットの中から現実を引っ張り出してきました。
私はすぐにスマホで写真を撮りました。
表も裏も、折り目も、文字も、全部。
そして原本は、封筒に入れて自分の引き出しにしまいました。
その日の夜、夫はいつも通り帰ってきました。
「ただいま」
何食わぬ顔で玄関に立つ夫を見た時、胸の奥が冷たくなりました。
この人は、私の前でこんなに普通の顔ができるんだ。
私は笑顔を作りました。
「おかえり。ご飯できてるよ」
夫は何も気づかず、リビングに入ってきました。
食卓で、夫はまた言いました。
「来月、仕事忙しくなるかも。外泊もあるかもしれない」
私は味噌汁をよそいながら、静かに聞きました。
「そうなんだ。大変だね」
夫は安心したように頷きました。
「まあ、しばらく我慢して」
その言葉を聞いて、心の中で笑いました。
我慢?
私が?
あなたの“アパート生活”のために?
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