「障害があるなら、接客なんかさせるなよ」
その男の声が店内に響いた瞬間、駅前のタリーズの空気が一気に凍りました。
昼過ぎの店内は、そこそこ混んでいました。
レジには、若い男性スタッフが立っていました。
少し動きはゆっくりでした。
ドリンク名を確認するときも、支払い金額を伝えるときも、ひとつひとつ丁寧に復唱していました。
でも、雑ではありません。
むしろ、間違えないように一生懸命やっているのが分かる接客でした。
私は後ろに並びながら、
「ああ、丁寧な人だな」
くらいに思っていました。
ところが、私の前にいたスーツ姿の男は違いました。
最初は小さな舌打ち。
次に、わざと聞こえるようなため息。
そして、
「遅ぇな……」
と、店内に響くくらいの声で呟いたのです。
スタッフは少し緊張した顔になりました。
それでも、きちんと頭を下げました。
「申し訳ございません。ご注文を確認いたします」
その態度を見ても、男のイライラは収まりませんでした。
むしろ、相手が言い返さないと分かったからなのか、どんどん強気になっていきました。
その時、男の視線がレジ横の貼り紙に止まりました。
そこには、障がい者雇用への理解を求めるお知らせが貼ってありました。
男はそれを見て、鼻で笑いました。
「あー、そういうことね」
店内の空気が変わりました。
嫌な予感がしました。
男は、わざと大きな声で続けました。
「だからこんなに遅いんだ?」
スタッフの表情が固まりました。
でも男は止まりません。
「いや、障害あるなら裏方やらせれば?」
「接客とか無理でしょ、普通」
「こっちは金払ってんだけど?」
その言葉を聞いた瞬間、後ろに並んでいた人たちが一斉に黙りました。
誰も笑っていませんでした。
誰も同意していませんでした。
ただ、あまりに突然のひどい言葉に、みんな固まっていたのです。
スタッフは唇を少し噛みしめていました。
それでも、
「申し訳ございません」
と頭を下げました。
私は胸がぎゅっと痛くなりました。
謝る必要なんてない。
そう思いました。
でも、声がすぐには出ませんでした。
すると奥から、店長らしき女性スタッフが出てきました。
「お客様、申し訳ございません。こちらで対応いたします」
店長は落ち着いた声で言いました。
けれど男は、さらに態度を大きくしました。
「謝れば済むと思ってるの?」
「普通の店員出してよ」
「こっちは急いでるんだよ」
その“普通”という言葉が、店内に嫌な形で残りました。
スタッフの手は、少し震えていました。
それでも彼は、レジから離れず、きちんと立っていました。
逃げるでもなく、怒るでもなく、ただ仕事を続けようとしていました。
私はその姿を見て、むしろ男の方がずっとみっともないと思いました。
その時です。
男のスマホが、けたたましく鳴りました。
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