あの日の朝、私はすべてが順調だと思っていた。
保育士資格のための大事な講座。
何ヶ月も前から準備してきて、
やっとここまで来たという実感があった。
カバンの中には必要な書類、
前日までに何度も確認したスケジュール。
少し早めに家を出て、
「これなら大丈夫」と思っていた。
――その途中までは。
駅に着いた瞬間、空気が違った。
いつもなら流れるように動く人の波が、
どこかで止まっている。
電光掲示板には、
見慣れない文字が並んでいた。
「人身事故のため、運転見合わせ」
一瞬、意味が理解できなかった。
でも、次の瞬間には体が動いていた。
別の路線を探して、
タクシーを拾って、
何とか間に合わせようと必死だった。
「お願い、間に合ってくれ…」
頭の中はそれだけだった。
けれど、時間は残酷だった。
乗り換え、渋滞、遠回り――
どれだけ急いでも、針は進んでいく。
ようやく会場に着いたとき、
時計は開始時刻をすでに過ぎていた。
10分。
たった10分。
それでも、私は走った。
受付に駆け込み、
息を整える間もなく言った。
「すみません、人身事故で遅れてしまって…
これ、遅延証明書です」
手にしていた紙を差し出す。
これがあれば、きっと説明できる。
そう信じていた。
でも、返ってきた言葉は、予想とは違った。
「申し訳ありませんが、規則ですので
遅刻された場合はご参加いただけません」
その一言で、時間が止まった気がした。
「え…でも、事故で…」
言葉が続かない。
「どのような理由であっても、同様の対応となります」
淡々とした声だった。
責めているわけでもない。
怒っているわけでもない。
ただ、決まっていることを伝えているだけ。
それが、逆に現実だった。
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