昨日、70歳の母が「iPhoneに変えたから見てほしい」と言うので、たまたま実家に寄った。操作が分からないとか、写真が消えたとか、そういう話だと思っていた。
テーブルの上に置かれていた契約書を、何気なくめくった瞬間、手が止まった。
セキュリティソフト 750円/月Pontaパス 500円/月その他、細かいオプションがいくつも並んでいる。
合計を計算して、頭が真っ白になった。セキュリティだけで総額36,000円。母はそれが何のためのものか、そもそも「契約した」という認識すらなかった。
「これ、いるって言ったの?」そう聞くと、母は少し困った顔で「よく分からなかったけど、“入った方が安心です”って言われたから……」と小さく答えた。
その瞬間、怒りが一気に湧き上がった。
翌日、私は母を連れてauショップに向かった。事情を説明し、解約をお願いすると、店員は驚くほど淡々とした顔でこう言った。
「こちらはWebでの解約になりますので、ご自身でお手続きください」
一瞬、言葉が出なかった。目の前に70歳の高齢者が立っているのに、だ。
「契約はここでできたのに、解約はできないんですか?」そう聞くと、「説明して同意をいただいていますので」と、テンプレのような返事。
説明?あの複雑な仕組みを、この人は本当に“説明”したと言えるのか?
結局、店では何もしてもらえず、家に帰って私がWeb手続きを手伝うことになった。身分証のアップロード、メール認証、パスワード再設定。正直、ITに慣れている私ですら面倒だった。
母は横で「ごめんね、こんなことになって」と何度も謝っていた。
違う。悪いのは母じゃない。
「解約しなければ、ずっと引き落とされ続けます」その事実を思い出した瞬間、怒りが冷たく変わった。
そこで、私はあることに気づいた。
――この仕組み、知らない人ほど損をするように出来ている。
その日の夜、私は契約内容をすべて洗い出し、通話履歴、契約時間、説明項目を整理した。翌日、auのカスタマーセンターに再度電話を入れた。
感情は出さない。淡々と、事実だけを並べる。
「高齢者が自力で解約できない設計になっている」「契約時と解約時のハードルが明らかに違う」「このやり方は消費者トラブルとして記録に残りますか?」
数秒、向こうが黙った。
しばらくして、トーンが変わった。「確認の上、返金対応を検討させてください」
数日後、全額返金の連絡が入った。
母は「よかったねぇ」と笑ったけれど、私は全然スッキリしなかった。なぜなら、声を上げられない人は、今も同じ目に遭っているから。
そして私は最後に、母にこう言った。
「もう一人で行かなくていい。次に何かあったら、私が一緒に行く」
母は少し驚いた顔で、でも安心したようにうなずいた。
この国では、“説明したから問題ない”“同意したから自己責任”そう言えば、全部正当化できてしまう。
でも、分からない人に分からないまま契約させるのは、それはもう「商売」じゃない。
次に同じことが起きたら、私はもう解約だけで終わらせない。
だってこれは、一家庭の話じゃない。構造そのものの話だから。