「『これ見ろよ!』」
男性客がレジにレシートを突き出し、大声で言った。
その瞬間、私は内心で「うわ、またクレーマーか…」と身構えてしまった。
周りの客も、一斉に顔をしかめて見ている。
でも、すぐにその考えを撤回することになった。
「さっきパックご飯20個買ったのに、会計が1個分だよ!」
彼の声は確かに大きかったが、今度はよく見るとその目は真剣だった。
店員が焦りながらも「すみません、確認します」と言ってレシートをチェックし始めた。
その間、私は周りの反応を気にしていた。誰もが気まずい空気を感じ取っていたからだ。
そして、男性客はまだ声を荒げていたが、冷静に説明を続けていた。
「一個しか入っていないって言うけど、これで間違ってるのはわかるだろ?」
周囲はどうしても彼の大きな声に圧倒され、冷静さを失っていた。
しばらくして、店員が顔を赤らめながら戻ってきた。
「申し訳ありません、間違えていました。お客様が買った20個、確かにミスでした。」
男性客は一瞬黙り込むと、次に言った言葉がまた私の予想を裏切った。
「そんなに慌てるなよ。大丈夫だって。ありがとうな。」
私は驚いた。声は大きかったが、まったくもって理不尽ではなかった。
実際、彼がここで大声を出した理由は、ただの単純なミスを指摘するためだったのだ。
周りの客は、最初はあんなに彼に反感を抱いていたのに、今ではその優しさを見直していた。
そして、もう一度彼が言った言葉が、空気を一変させた。
「結局、確認してくれてよかった。みんな忙しいだろうけど、ミスを指摘することは大事だよな。」
その瞬間、全員が肩の力を抜いた。店員も、思わず「本当に申し訳ありませんでした」とお礼を言った。
男性客は笑いながら、「じゃあ、もう一度支払い直すよ」と言って、無事に会計を終えた。
私はその場で気づいた。最初に彼を「クレーマーだ」と決めつけた自分が恥ずかしくなった。
結局、大声を出していたのは、彼がただ「ミスを正したい」という正当な理由からだった。
その後、私はふと、周囲の人々がどれだけ偏見を持っていたのかを感じた。
社会では、よく「声が大きい人=問題を起こす人」と思いがちだが、実際にはそれが必ずしも真実ではないということを思い知らされた。
結局、男性客はその後すっかり穏やかな表情を取り戻し、何事もなかったかのようにその場を去った。
その時、私は心の中で静かにこう思った。
「声を大きくすること=悪いこと、ではないんだ。」