あの夜の雪は、
「静か」なんて言葉じゃ足りなかった。
ライトの先は真っ白で、世界が削除されたみたいだった。
そんな中、道の脇に半分落ちた車が見えた。
前輪は宙に浮き、後輪だけが必死に空回りしている。
ブレーキを踏んだ、その一瞬。
正直に言うと、私は迷った。
——この天気で止まる?
——関わったら、確実に面倒だよね?
頭の中では「行け」という声と
「見なかったことにしろ」という声が殴り合っていた。
……で、結局私は止まった。
理由なんて立派なものじゃない。
ただ、目の前で困っている人を、無視できなかっただけ。
運転席にいた男性は、幸いケガはなかった。
でも顔色は雪より白くて、手が小刻みに震えていた。
「寒いですよね。乗ってください」
暖房を最大にして、
凍えた手が少しずつ動くのを横で見ながら、
彼は救援に電話をかけた。
車内は、妙に静かだった。
感謝も、動揺も、言葉としては多くない。
私はその時点で、心の中でこう思っていた。
**「ああ、これで終わりだな」**と。
助ける側って、
たまに“して当たり前”みたいな空気を感じることがある。
何度か、そういう経験もしてきた。
だから正直、期待はしていなかった。
救援車が来るまで時間がかかるというので、
私は近くのコンビニまで彼を送ることにした。
車を止めた瞬間、
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