「まだそれやってるの?
人のこと踏んで笑い取るしか能ないの、40年前から一ミリも成長してないじゃん。」
店、静まり返った。
居酒屋のざわざわが、一瞬で止まる。
グラス持ったまま、みんな固まってた。
言われた本人だけが笑ってる。
いつもの、あの笑い。
「え?冗談だろ?」って顔。
違う。
冗談じゃない。
さっきまであいつは、隣の子に言ってた。
「まだ独身?そりゃその性格じゃな〜」
「そういう女、昔からいたよな〜」
その子、笑ってた。
でも目、死んでた。
あの目、知ってる。
私は椅子を引いた。
ガタン。
「笑ってるの、あんただけだよ。」
空気が凍る。
「冗談?
それ“冗談”じゃなくて“いじめ”って言うんだよ。」
あいつ、苦笑い。
「いやいや、そんな大げさな——」
遮った。
「小学生の頃からそうだったよね。
反撃しない子だけ選んでた。」
誰かが息を呑んだ。
「覚えてる?
そばかすの子、毎朝泣いてた。」
あいつの顔、止まる。
「今もやってること同じ。
年だけ取って、中身ずっと小学生のまま。」
誰も笑わない。
私は止まらなかった。
「強い人は、人の自尊心踏んで笑い取らない。
それしか武器ないって、もう人生詰んでない?」
しん、とした。
あいつ、口開いて閉じて、言葉出ない。
私は最後に言った。
「ここ同窓会。
いじめ再放送見る会じゃない。帰って。」
一拍。
あいつ、立った。
誰も止めない。
ドア、閉まった。
———
静寂。
私は座った。
手が震えてた。
怒りじゃない。
昔の空気が抜けた後の、余震。
その時だった。
「モエちゃん…?」
顔を上げた。
向かいの席。
知らない女性。
でも目が、涙でいっぱい。
「校門で…毎朝、迎えに来てくれた…」
時間が止まる。
擦りむいた膝。
泣きながら引きずられてた小さな背中。
私を見ると、必死に笑った顔。
あの子。
「モエちゃんがいなかったら、学校来れなかった。」
胸が詰まる。
その隣の女の子が、静かに頭を下げた。
「母からずっと聞いてました。」
まっすぐ私を見る。
「正義の味方モエちゃん、ですよね?」
———
ダメだった。
笑おうとしたのに。
涙が先に出た。
50歳なのに。
声も出ないくらい泣いた。
彼女、笑ってた。
穏やかな顔。
素敵な娘さん。
あの朝、校門で震えてた子が。
ちゃんと大人になってた。
彼女が私の手を握った。
「ずっと、ありがとうって言いたかった。」
私はうなずいた。
「あの時の私は小さかったけど、
本気で守る気だったよ。」
あの日、私はヒーローごっこしてたつもりだった。
でも違った。
誰かの人生に、ちゃんと残ってた。
正義、遅れたけど。
ちゃんと届いてた。
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