「……乞食、って顔してる」
レジの向こうで、男はわざと聞こえる声量で言って、口の端だけ上げて笑った。
その瞬間、頭が真っ白になった。
私は45歳の主婦。
派手でもないし、贅沢もしない。
今日だって、ただ節約しようと思っただけだった。
14時ころ、近所のコンビニで大量の恵方巻きに30%オフのシールを貼っている店員さんを見た。
「もう値引きなんですね?」と聞いたら
「17時には半額にしますよ、その時間が一番お得です」
と優しく教えてくれた。
どうせ今夜は私ひとり。
食品ロスにもならないし、ちょうどいいなって思った。
その時は、いい店だなって思ったんだ。
17時過ぎに戻ると、レジには別の男の店員。30代くらい。
「恵方巻き、半額になりますか?」
と聞いたら、面倒くさそうに
「なりませんよ」
あれ?と思ったけど、「そうですか」と離れようとした、その背後。
「……乞食」
しかも、ニヤッと笑いながら。
心臓がドクンと鳴った。
怖くて一度は店を出た。
でも外の冷たい空気の中で思った。
私、何した?
ただ安く買おうとしただけ。
それって、そんなに人として下?
足が勝手に店に戻っていた。
「今の言葉、取り消してください」
震えたけど、目は逸らさなかった。
男は鼻で笑った。
「は?言ってませんけど?」
「被害妄想じゃないですか?」
その態度で確信した。
この人、客を人だと思ってない。
私はスマホを握りしめて言った。
「外で録音回したまま戻ってきました」
「それと今、本部にも電話します」
男の顔色が一瞬だけ変わった。
それでも私は恵方巻きを1本、レジに置いた。
すると男は袋詰めしながら、わざとらしく手を滑らせた。
ポトッ。
床に落ちた恵方巻き。
でも謝りながら笑ってた。
その瞬間、胸の奥で何かが切れた。
「いい加減にしてください!!」
声が店内に響いた。
「さっきの言葉も、今の行動も、全部確認してもらいます!」
私はその場で本部に電話。
店名、時間、状況、全部伝えた。
その時、後ろにいた女性客が小さく言った。
「……今、聞こえました。言ってましたよ」
男の顔から血の気が引いた。
後日。
本部から正式な連絡。
✔ 暴言確認
✔ 故意に商品を落とした行為確認
✔ 接客規定違反
結果——
即時解雇。
さらに、私に謝罪と返金+お詫び金。
その店舗では全従業員への接客研修が行われたらしい。
私はただ、安く恵方巻きを買いたかっただけ。
でも分かった。
恥ずかしいのは節約じゃない。
客を見下す心の方だ。
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