「私に4時間立てってことですか?」
自分でも声が少し低くなっていたと思う。
でも、あの状況で笑顔は無理だった。
——話は少し前に戻る。
博多から東京へ向かうのぞみ号。
全席指定の車両、通路まで人が立っている繁忙期の夕方。
息子が「トイレ」と立った。
その瞬間だった。
斜め後ろに立っていた母親が、すっと距離を詰めてきた。
小さな子どもを連れている。
「あの…隣、空いてますか?」
(来た。見てたな、この席)
「子どもの席なので空いていません。」
私は丁寧に言った。
普通ならここで終わるはずだった。
終わらなかった。
その子どもが、私の肘の横でずっと言い続ける。
「ママ〜しんどい〜」
「座りたい〜」
「お腹すいた〜」
「ゲームしたい〜」
2時間。
母親はあやさない。
移動もしない。
ただ、立ったまま、私たちの横。
(なるほど、“聞かせる”作戦ね)
息子が戻ってきて座ると、母親が聞こえる声で言った。
「しょうがないでしょ!席が空いてないんだし、誰も譲ってくれないんだから!」
(いや、それ“誰も譲らない”じゃなくて、“あなたが取ってない”ね?)
私は無視。
その後、私がトイレに立った時、また現れた。
「あの…子どもがぐずってて…席を2つ譲ってもらえませんか?」
(1席から2席に増えてるの草)
そこで出たのが、あの一言。
「私に4時間立てってことですか?」
母親は一瞬詰まり、目を逸らした。
「子どもが、泣いてて…」
「それはご自身の責任ですよね。」
舌打ちして去っていった。
——と思ったら。
次の駅で人が降りた瞬間、ダッシュで着席。
(うわ、そういうタイプか)
だが、その数分後。
「失礼します。」
車掌だった。
車内が少し静まる。
「こちらは指定席車両です。自由席のきっぷではご利用いただけません。」
母親、焦った声。
「自由席は混んでて座れないんです!指定席の人が来たらどけばいいでしょ?」
車掌の声は変わらない。
「規則です。皆様が守っているから安全に運行できるんです。
」
空気が止まった。
母親は何か言いかけて、結局、荷物を持って立ち上がった。
座っていた時間、たぶん3分もない。
通路に戻る後ろ姿を見ながら、私は思った。
——泣いてたのは子どもだけど、
無理を通そうとしてたのは、大人のほうだった。
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