昨日の昼、厨房から出てきたアルバイトの子が、顔色真っ青で立っていた。
「店長…ラーメン、少し…こぼしてしまいました…」
手元のトレイは小刻みに揺れ、スープの香りがほんのり漂う。
テーブルを見ると、確かに少量のラーメンが飛び散っている。
白いシャツの袖に、ほんの少し。
「す、すみません…!」
アルバイトの子は必死に頭を下げる。
しかし、お客様は眉間にしわを寄せるだけで、許す気配はない。
「服が汚れた!スマホも水没した!」
次々に苦情が飛ぶ。
アルバイトの子は俯き、手で顔を覆う。
息が詰まるような緊張。
私はすぐに介入した。
「わかりました、クリーニング代は当店でお支払いします」
お客様は渋々頷き、少し落ち着いた様子で帰宅。
アルバイトの子も、小さく肩を揺らしながらほっとした顔をする。
「本当に…ごめんなさい…」
「大丈夫、次から気をつけよう」
そして今日。
「領収書を持ってきました!」
アルバイトの子が手渡す封筒を受け取る。
封筒を開け、目に飛び込んできたのは三枚のクリーニング領収書。
まず一枚目… ¥6,541。
二枚目… ¥11,110。
三枚目… ¥1,990。
「…え、これ全部?たった40ccほどこぼしただけなのに?」
アルバイトの子も、思わず目を丸くして固まる。
私は心の中でツッコミを入れる。
「ラーメン1杯400円ちょっとしかこぼしてないのに、合計で¥19,641もかかるのか…」
スマホの請求書まで持ってきていいと言われたらしいが、さすがにそれは無理だ。
厨房では、その日のラーメン5杯、餃子、炒飯も一緒に廃棄になった。
正直、ラーメンこぼしの被害額より、そっちの方が大きいくらいだ。
私はアルバイトの子に微笑みかける。
「大丈夫、クリーニング代だけで済ませるよ。スマホは勘弁」
彼女は肩を揺らし、深く息をついた。
しかし、頭の中ではまだ信じられない思いが渦巻く。
「40ccのスープでここまで高額になるとは…」
領収書を並べて、私は思わず笑いをこらえる。
お客様は真剣だったが、結果として笑えるオチになった。
この一件で学んだこと。
小さなミスも、大騒動に発展することがある。
でも、冷静に対応すれば、必ず収束する瞬間は訪れる。
そして、ほんの少しのユーモアも忘れずに。
アルバイトの子は帰り際、私に小さく手を振った。
「明日からもっと気をつけます!」
私は笑顔で見送りながら、厨房を見渡す。
「次は廃棄も最小限に…」
心の中で小さく呟き、今日の騒動は幕を閉じた。