新幹線に乗ると、私はいつも少しだけ気持ちが整う。
駅弁の匂い。
車内販売のない静かな通路。
窓の外を流れていく景色。
指定席に腰を下ろし、背もたれに体を預けた瞬間、仕事の疲れが少し抜ける気がした。
その日もそうだった。
私は通路側の席に座り、スマホを鞄にしまって、ようやく一息ついた。
車内は混んでいた。
家族連れもいる。
出張らしきスーツ姿の人もいる。
外国人観光客らしき人たちも、荷物棚に大きなスーツケースを上げていた。
みんなそれぞれの時間を静かに過ごしている。
そんな中で、ひときわ目立つ乗客がいた。
少し離れた席の男性だった。
座席に深く沈み込み、靴を脱いで、足を前の座席の背面に投げ出している。
しかも片足ではない。
両足である。
まるで自宅のソファで動画を見ているような姿勢だった。
私は一瞬、自分の目を疑った。
ここはリビングではない。
新幹線である。
しかも指定席である。
前の座席には、背面テーブルも案内表示もある。
他人が手を触れる場所だ。
そこに素足を乗せる勇気。
いや、勇気ではない。
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