「ここ、障害者専用ですよね?」
そう声をかけても、若い夫婦は“面倒くさそうな顔”をしただけだった。
土曜の昼。私は山形の大型スーパーに買い物へ来ていた。
駐車場はかなり混んでいて、普通車スペースはほぼ満車。
そんな中、入口横の“思いやり駐車場”に、黒い高級ミニバンが勢いよく滑り込んできた。
降りてきたのは、20代後半くらいの夫婦と、5〜6歳くらいの男の子。
父親はサンダル。母親はスマホ見ながら歩いている。
子どもも元気に走り回っていた。
――どう見ても、歩行困難には見えない。
でも夫婦は当然のように、思いやり駐車場へ停めた。
私は少し迷った。
最近は、注意した側が逆ギレされる時代だ。
でも、ちょうどその時。
後ろから、車椅子マークのついた軽自動車が入ってきた。
運転していたのは、70代くらいの女性。
助手席には、杖を持った男性が座っていた。
空いている優先スペースは、もうその一台しかない。
でも、黒いミニバンが停めているせいで、入れない。
すると、おばあさんは小さくため息をついた。
「……またか」
その声が、妙に苦しかった。
私は我慢できず、ミニバンの夫婦へ声をかけた。
「すみません。ここ、本当に必要な人が使う場所ですよ」
すると父親は、露骨に嫌そうな顔をした。
「は?空いてたから停めただけですけど?」
母親まで鼻で笑う。
「子ども連れてると大変なんですよね〜」
いや、だから何だ。
周囲の空気が一気に冷えた。
しかも父親は、さらに信じられないことを言った。
「じゃあ障害者来たら、その時どけばよくないっすか?」
……絶句した。
その瞬間。
後ろで待っていたおじいさんが、ゆっくり車から降りようとして、バランスを崩した。
杖が滑り、身体が傾く。
「危ない!!」
近くにいた店員さんと私が、慌てて駆け寄った。
おばあさんも青ざめている。
でも。
その様子を見てもなお、若い夫婦は動かなかった。
車の横で、ただ立って見ているだけ。
さすがに周囲もザワつき始めた。
「え、まだどかないの?」「信じられない…」「子どもの前であれはヤバい」
するとその時。
ずっと黙っていた男の子が、父親の服を引っ張った。
「パパ……」
父親がイライラしながら振り返る。
「なに?」
すると男の子は、小さな声で言った。
「ここ、“困ってる人の場所”なんでしょ?」
――空気が止まった。
母親の顔が固まる。
男の子は続けた。
「保育園で習ったよ。元気な人は使っちゃダメって」
父親は何も言えない。
周囲の視線が、一気に夫婦へ集まった。
逃げ場がなくなった父親は、舌打ちしながら車へ戻る。
でも。
さらに追い打ちみたいに、男の子が最後にこう言った。
「パパ、悪いことしたなら謝らないの?」
……完全に終わった。
周囲から、小さく拍手まで起きた。
父親は真っ赤な顔で、無言のまま車を移動。
母親も、さっきまでの強気が嘘みたいに下を向いていた。
そのあと、おじいさん夫婦は無事に駐車できた。
店員さんが深く頭を下げると、おばあさんは苦笑いしながら言った。
「最近、“思いやり”って言葉だけ増えたねぇ」
その言葉が、妙に胸に残った。
制度は増えても、結局最後は“人間性”。
そして――
あの日一番まともだったのは、大人じゃなく、あの小さな男の子だったと思う。