「紙を置いとけば許されると思ってるんですか?」
雨の日の朝、買い物から戻ってきた私は、自宅マンションの駐車場の前で思わず固まりました。
私の契約している車位に、見覚えのない黒い軽自動車が堂々と停まっていたのです。
しかもフロントガラスには、白い紙が一枚。
そこには手書きでこう書かれていました。
「臨時駐車です。不便をおかけします」
私はその瞬間、思わず笑いそうになりました。
いや、不便をかけると分かっているなら、最初から停めないでほしい。
しかもその日は雨。
私は荷物を抱えたまま、車を停める場所もなく、しばらく駐車場の入口で立ち尽くしました。
最初は、すぐ戻ってくるのかもしれないと思いました。
でも五分待っても、十分待っても、誰も来ません。
紙には連絡先もなし。
「不便をおかけします」と書いてあるだけで、こちらがどうすればいいのかは何も書いていませんでした。
私はまず写真を撮りました。
車の位置。
フロントガラスの紙。
自分の契約車位が完全に塞がれている様子。
感情で動くより、まず証拠を残そうと思ったからです。
それから管理会社に電話しました。
担当の方はすぐに確認してくれて、「登録されていない車両ですね」と言いました。
続けて警察にも相談しました。
警察の方が車の所有者に連絡してくれたそうですが、相手は電話に出ませんでした。
管理会社からも連絡を入れてくれました。
それでも無視。
私は雨の中、仕方なく近くのコインパーキングへ車を移動させました。
自分の駐車場代を払っているのに、なぜ私が追加でお金を払わなければならないのか。
その理不尽さに、だんだん腹が立ってきました。
一時間近くたった頃、その車の持ち主らしき男性がようやく現れました。
傘も差さず、急ぐ様子もなく、スマホを見ながらのんびり歩いてきました。
私は声をかけました。
「この車、あなたのですか?」
男性は私を見るなり、面倒くさそうに言いました。
「ああ、そうですけど」
その態度で、私はすぐに分かりました。
この人は悪いことをしたと思っていない。
私はできるだけ冷静に言いました。
「ここ、私が契約している駐車場なんです」
すると男性は、フロントガラスの紙を指さしました。
「いや、ちゃんと紙置いてたでしょ?」
一瞬、耳を疑いました。
紙を置いたら、他人の駐車場を使っていいことになるのか。
私はそのまま聞き返しました。
「紙を置いたのは、連絡するためですか?それとも、勝手に停めるって宣言するためですか?」
男性の顔が少しだけ歪みました。
「そんな大げさに言わなくても。ちょっとだけですよ」
私はスマホの時計を見せました。
「ちょっとだけで一時間近くです」
男性は舌打ちしそうな顔で、さらに言いました。
「別に車出せなかったわけじゃないでしょ?どこかに停めたんでしょ?」
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