「私、うつすかもしれない病気なの……」
付き合って間もない頃、彼女はそう言って泣きました。
最初に違和感を覚えたのは、彼女の家に泊まりに行った日のことです。
シャワーから出てきた彼女の足に、赤い発疹のようなものが広がっていました。
私は驚いて聞きました。
「それ、大丈夫?」
すると彼女は、慌ててバスタオルで足を隠しました。
そして、今にも泣き出しそうな顔で言ったのです。
「ごめん……これ、感染するかもしれない病気なの」
その日から、彼女は私との接触を避けるようになりました。
手を繋ぐのはほんの少しだけ。
キスをしようとすると、悲しそうに顔をそむける。
抱きしめても、すぐに体を離す。
当然、それ以上の関係もありませんでした。
でも私は、責められませんでした。
彼女は毎回、本当に苦しそうに謝ったからです。
「本当は普通の恋人みたいにしたい」
「でも、あなたにうつしたらと思うと怖いの」
そんなふうに泣かれたら、私は何も言えませんでした。
むしろ、こう思っていました。
この人を守れるのは、自分しかいない。
だから私は、できる限り彼女を支えました。
病院代が足りないと言われれば出しました。
体調が悪いと言われれば、仕事を早めに切り上げて迎えに行きました。
通院の日は車で近くまで送って、彼女が「ひとりで入りたい」と言えば、何も聞かずに待ちました。
友人には何度も言われました。
「病院名くらい聞いた方がよくない?」
「薬も見たことないって、さすがに変じゃない?」
でも私は、彼女を疑うことができませんでした。
なぜなら、彼女はいつも弱々しく笑っていたからです。
「こんな私でごめんね」
「いつか治ったら、普通の恋人みたいになれるかな」
そう言われるたびに、私は自分に言い聞かせていました。
愛しているなら、待てるはずだ。
支えるのが男だ。
そう思い込んでいました。
そして三年が経ちました。
私は彼女にプロポーズしました。
彼女は指輪を見た瞬間、涙を流しました。
「本当に、私でいいの?」
「こんな体の私と結婚して、後悔しない?」
私は迷わず答えました。
「後悔しない。病気ごと支えるよ」
その時の彼女の涙を、私は本物だと思っていました。
結婚式当日までは。
式の日、彼女は白いドレスを着ていました。
親族も友人も集まり、会場は幸せな空気に包まれていました。
みんなが彼女を見て、
「大変な病気なのに、よく頑張ったね」
「あなたが支えてあげたからだね」
と涙ぐんでいました。
私は少し照れながらも、誇らしかった。
これからやっと、彼女を正式に守れる。
そう思っていたのです。
ところが、式の直前。
彼女が急に胸を押さえました。
「苦しい……」
そう言って、その場に崩れ落ちたのです。
会場は一気に騒然となりました。
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