あの日、ポストに入っていた封筒を見た瞬間、嫌な予感はしていた。
「住民税通知書」
でも、ここまでとは思っていなかった。
金額を見た瞬間、頭が真っ白になる。
134,400円。
……は?
声が出なかった。
休職して、やっと心も体も少し落ち着いてきたところだった。
それなのに現実は、まるで容赦なく追い打ちをかけてくる。
私はすぐ会社に連絡した。
「住民税が急に高すぎるんですが…これってどういうことですか?」
人事の返事は、驚くほど軽かった。
「それは個人の税金なので、会社は関係ありませんよ」
その一言で、何かが切れそうになった。
でも、私は一度深呼吸して耐えた。
“本当にそうなのか?”
違和感があった。
休職前の収入にしては、明らかに計算が合わない。
その夜、私は制度を調べた。
住民税は「前年所得」で決まる。
でも、会社が退職・休職のタイミングで正しく申告していないと、計算がズレることがある。
そして私は気づいてしまった。
これ……会社側の処理遅れじゃない?
翌日、私はもう一度人事に連絡した。
「減員申告の提出日、いつでしたか?」
少しの沈黙のあと、返ってきたのは曖昧な答えだった。
「システムの都合で少し遅れたかもしれません」
その瞬間、全て繋がった。
“かもしれません”で134,400円は払えない。
私は静かに決めた。
これは個人の問題じゃない。
会社の処理ミスだ。
そのまま労働局に相談した。
書類を揃え、給与明細、退職日、住民税の計算書、すべて提出した。
担当者は淡々と確認しながら言った。
「これは確認案件ですね。会社側に説明を求めます」
その一言で、空気が変わった。
数日後、会社に照会が入った。
私は何もしていない。
ただ“正しい場所に持っていっただけ”。
それでも十分だった。
数日後、人事から連絡が来る。
「住民税の計算について、再確認させてください」
あれほど強気だった声が、少し揺れていた。
さらに数日後。
結果が出た。
会社の申告処理に不備あり。
住民税の算定時期にズレが発生。
つまり——
私の負担だったはずの金額の一部は、本来ここまで高くなる必要がなかった。
修正手続きが行われることになった。
そして、あの134,400円は——
分割・再計算対象となった。
私はその通知を見て、しばらく動けなかった。
怒りじゃない。
悲しみでもない。
ただ、「やっと終わった」という静かな感覚だった。
後日、人事から短い連絡が来た。
「今後は再発防止を徹底します」
その言葉を見たとき、少しだけ笑ってしまった。
再発防止?
いや、違う。
最初からちゃんとやっていれば、私はこんなに苦しまなかった。
でも、私はもう責めなかった。
ただ一つだけ分かったことがある。
“黙っている人間ほど、損をする世界がある”
そしてもう一つ。
“ちゃんと動けば、覆る現実もある”
あの日、134,400円の通知を見て崩れそうになった自分に、今なら言える。
「泣く前に、調べろ。動け。戦える」
そして最後にもう一度だけ思った。
この社会は理不尽だけど——
理不尽は、正しさの前では意外と脆い。