「おい!お前だろ!俺の車にぶつけたの!」
オートバックスで雨ワイパーを見ていた私は、突然の怒鳴り声に振り返った。
店の入口に立っていたのは、見知らぬ中年の男だった。
顔を真っ赤にして、まっすぐ私を指さしている。
「お前の車がドアパンチしたんだよ!外に来い!」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
店内にいた人たちの視線が、一斉に私へ向いた。
まるでその場で、私が犯人だと決まったみたいだった。
私は買おうとしていたワイパーを棚に戻し、ゆっくり言った。
「身に覚えがありません。まず確認させてください」
男は鼻で笑った。
「確認も何も、俺の車に傷があるんだよ。早く認めろ」
外に出ると、男は銀色のアウディの横に立ち、サイドミラー付近の小さな黒い跡を指さした。
「これだよ、これ。お前がやったんだろ」
私は近づいて、その傷をじっと見た。
確かに黒い点のような跡はある。
でも、妙だった。
新しく擦れたような感じではない。
周りに汚れも溜まっているし、位置も私の車のドアが当たる高さとは少し違う。
私は自分の車のドア端を確認した。
塗装の剥がれもない。
相手の車に付くような汚れもない。
そもそも私は、駐車した時にかなり余裕を見てドアを開けていた。
男は私が黙って見ているのを、認めたと思ったのか、さらに声を荒げた。
「修理代、分かってんのか?アウディだぞ。安く済むと思うなよ」
私は言った。
「では、店の防犯カメラを確認しましょう」
その瞬間、男の表情が少し変わった。
さっきまであれほど強気だったのに、急に声のトーンが落ちた。
「いや、カメラなんか見なくても分かるだろ。お前の車が隣にあったんだから」
「隣にあったことと、ぶつけたことは別です」
私がそう返すと、男は舌打ちした。
「面倒くせえな。認めればそれで終わる話だろ」
その一言で、私は完全に冷静になった。
この人は真実を知りたいんじゃない。
私に認めさせたいだけだ。
私はスマホを取り出した。
まず、相手の車の傷を撮った。
次に、自分の車のドアの縁。
両方の車の距離。
駐車線。
車の位置関係。
すべて、角度を変えて撮った。
男が怒鳴った。
「何撮ってんだよ!」
私は画面から目を離さずに言った。
「証拠です」
男が近づいてきたので、私は一歩下がり、そのまま110番した。
「もしもし。駐車場で、車をぶつけたと一方的に言われています。こちらは身に覚えがなく、相手が店内まで怒鳴り込んできました」
電話をしている間、男の顔色が変わっていくのが分かった。
さっきまでの勢いが、少しずつ消えていく。
店員さんも出てきてくれて、私は事情を説明した。
「駐車場のカメラ、確認できますか?」
店員さんはすぐにうなずいた。
「警察が来たら、必要に応じて対応します」
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