駐車場に戻った瞬間、私は言葉を失った。
自分の車のタイヤに、赤い輪止めが装着されていた。
フロントガラスには一枚の紙。
「違法駐車につき罰金10万円」
一瞬、状況が理解できなかった。
ここは公共ではない。
私が購入した“自分の所有する駐車区画”だったからだ。
思わず、乾いた笑いが出た。
違法なのは一体どちらなのか。
私はその場でスマホを取り出した。
まずは管理会社に連絡した。
しかし返ってきたのは、曖昧な返答だった。
「確認します」「少々お待ちください」
その間も、輪止めは外されないままだった。
周囲の視線が集まり始める。
まるで私が本当に悪者であるかのように。
だが私は焦らなかった。
次に、防犯カメラ映像の開示を要求した。
管理会社は一瞬ためらったが、結局了承した。
数分後、映像が再生された。
そこに映っていた人物を見て、私は目を疑った。
それは“隣の区画を借りているはずの男”だった。
しかも彼は、明らかに慣れた手つきで輪止めを設置していた。
そして紙を貼り、堂々と去っていった。
その瞬間、全てが繋がった。
彼は私の区画と自分の区画を完全に勘違いしていたのだ。
いや、正確には“確認すらしていなかった”。
怒りよりも、呆れが先に来た。
私はすぐに管理会社に再度連絡した。
「この映像、見ましたか?」
相手は沈黙した。
しばらくして、担当者の声が変わった。
「……申し訳ありません」
その日のうちに、輪止めは撤去された。
さらに、当事者の男が呼び出された。
彼は最初、強気だった。
「そっちが違法駐車だろ」と言い張った。
しかし映像と契約書を突きつけられた瞬間、顔色が変わった。
自分が“完全に間違っていた側”だと理解したからだ。
さらに問題はそれだけではなかった。
彼は他の住民の区画にも同様の警告を貼っていた。
つまり今回が初めてではなかった。
管理会社の判断は早かった。
その場で契約解除。
さらに敷金・保証金の返還なし。
加えて損害対応費用の請求まで決定された。
さっきまで私に10万円を請求していた男は、完全に立場を失った。
帰り際、彼は一言も発さなかった。
ただ、地面を見つめたまま立ち尽くしていた。
私は輪止めの外された自分の車に乗り込んだ。
何事もなかったかのようにエンジンをかける。
だが心の中では、はっきりと思っていた。
“確認をしない正義ほど危険なものはない”と。
そしてこの日を境に、駐車場の管理体制は一気に見直されることになった。
私の区画には、その後一度も無断で触れる者はいない。