「もう、できることは多くありません」
先生は、そう言った。
私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
え?
今、なんて?
私はちゃんと通っていましたよね。
予約の日に行って。
検査も受けて。
薬も飲んで。
点滴も受けて。
言われたことは、全部やってきたつもりだった。
なのに。
最後に返ってきた言葉が、
「かなり厳しい状態です」
だった。
手が震えた。
怒りなのか、怖さなのか、悔しさなのか、自分でも分からなかった。
でも、ひとつだけ分かっていた。
私は逃げていない。
放置もしていない。
ちゃんと助かりたくて、病院に通っていた。
それなのに、なぜ。
なぜ、ここまで来るまで何も変えなかったのか。
私の肝臓は、もう限界に近いと言われた。
胆汁がつまり、黄疸も出ている。
肝臓の機能が悪化している状態で、抗癌剤を使うのはリスクが高い。
だから、今は難しい。
そう説明された。
でも私は、その説明を聞きながら、ずっと思っていた。
今は?
今は難しい?
じゃあ、もっと前なら?
1か月前なら?
まだ体力が残っていた時なら?
まだ数値が今ほど悪くなかった時なら?
やれることは、本当に何もなかったのか。
診察室で先生の口から出てくる言葉は、どれも淡々としていた。
「検査結果を見て判断します」
「食事を気をつけてください」
「体調が悪化したら連絡してください」
何度も聞いた言葉だった。
そのたびに私は信じた。
専門家がそう言うなら。
このまま続ければ、少しは良くなるのだろうと。
でも現実は違った。
私の体は、どんどん悪くなっていった。
ご飯が入らない。
起き上がるだけで息が切れる。
皮膚の色も変わっていく。
家族が心配しても、私は言っていた。
「病院で診てもらってるから大丈夫」
その言葉を、今は思い出したくもない。
大丈夫じゃなかった。
全然、大丈夫じゃなかった。
私は真面目に通っていただけだった。
高いお金を払って。
時間を作って。
痛みも不安も我慢して。
それでも、治りたい一心で通っていた。
なのに、最後に言われたのが、
「今からできることは限られます」
それは、あまりにも残酷だった。
家に帰ってから、私は何度も書類を見返した。
検査結果。
薬の説明。
診察メモ。
何月何日に、どんな数値だったのか。
いつ黄疸が出始めたのか。
いつから食事が取れなくなったのか。
家族にも頼んで、全部並べてもらった。
すると、やっぱり思ってしまった。
もっと早く、動けたんじゃないか。
1か月も前に、別の方法を考えることはできたんじゃないか。
薬を変える。
入院で管理する。
別の病院に紹介する。
もっと詳しい説明をする。
選択肢は、ゼロではなかったはずだ。
なのに私は、何も知らされないまま、ただ通っていた。
信じていた。
それが悔しい。
悔しくてたまらない。
医者だから全部正しいなんて、今はもう思えない。
もちろん、医療に絶対はない。
それくらい分かっている。
病気が難しいことも分かっている。
思い通りにならないことがあるのも分かっている。
でも。
だからこそ、説明してほしかった。
危ない状態に近づいているなら、ちゃんと言ってほしかった。
「このままでは厳しくなる可能性があります」
「早めに次の手を考えましょう」
「別の選択肢もあります」
たった一言でも、違ったと思う。
私は、自分の体なのに、何も選べなかった。
選ぶための情報すら、もらえていなかった。
それが一番つらい。
そして一番、許せない。
家族は言った。
「もう一度、説明を求めよう」
最初は迷った。
今さら聞いても何になるのか。
体力もない。
話すだけでも疲れる。
でも、このまま黙っていたら、私の悔しさまでなかったことにされる気がした。
だから決めた。
泣き寝入りはしない。
次の診察で、家族と一緒に聞く。
なぜ、あの時点で治療方針を変えなかったのか。
なぜ、悪化の可能性をもっと強く説明しなかったのか。
なぜ、別の選択肢を提示しなかったのか。
感情で怒鳴るつもりはない。
でも、曖昧な言葉で流されるつもりもない。
私は患者だ。
ただ言われるままに座っている存在じゃない。
お金も払った。
時間も使った。
何より、自分の体を預けていた。
だから、きちんと説明を受ける権利がある。
その紙を握りしめながら、私は思った。
真面目に通った人間が、最後にこんな思いをするなんて、おかしい。
信じた人間だけが損をするなんて、おかしい。
「先生に任せていたから」
その一言で、全部終わらせていいはずがない。
来週の月曜日。
検査結果を持って、もう一度病院へ行く。
今度はただ聞くだけじゃない。
私は確認する。
私は記録する。
私は質問する。
そして、必要なら別の場所にも相談する。
もう黙らない。
悔しい。
本当に悔しい。
でも、この悔しさまで飲み込んでしまったら、私は自分にまで負けたことになる。
だから私は、最後まで声を上げる。
「なぜ、もっと早く動いてくれなかったんですか」
その一言を、必ず本人に聞く。
引用元:https://twitter.com/momoko_hatagaya/status/2047045357545341110?s=46,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]