「もう…限界だよ、マジで。」
家の中、静かな空気の中で、彼女はひとり呟いた。母親が寝室で呻き声を上げ、目を覚ますとまた「帰りたい、帰りたい」って、まるで壊れたレコードのように繰り返している。そのたびに胸が締め付けられる。たった一言で何年も押し込めてきた感情が溢れそうになる。
「お願いだから…お願いだから、ここで頑張って。私も限界なんだよ!」言葉がこぼれ落ち、彼女はその場にしゃがみ込んだ。
十五年間、母親の面倒を見てきた。その歳月は長かったし、何度も心が折れそうになった。最初の頃はまだ、元気だった母が毎日笑顔を見せてくれて、あたしはあの頃のように「何でもしてあげたい!」って気持ちでいっぱいだった。でも、時間が経つにつれて母親の体調は悪化していった。痴呆が進み、歩くことさえままならなくなった。
そして、ついに今日、あの決断を下さなければならなかった。
「マジで、このままだと私が倒れるよ…」彼女はそう呟くと、泣きたくなるのを必死で堪えた。心の中で、どうしてこんなにも辛い選択をしなければならないのか、自問自答していた。
でも、誰も手を貸してくれなかった。父親はとっくに他界し、兄妹たちは「お前がやれ」って、責任を丸投げしてきた。最初のうちは何とか頑張ろうと思ったけど、だんだん自分が壊れていくのがわかった。母親にはそれでもできるだけのことをしてきたけど、もう無理だった。
「私だって、私だって、疲れたんだよ!」彼女はそう叫んだ。涙が頬を伝ったが、今更どうしようもない。疲れ切って、もう心の底から叫びたくなった。
そして、決めた。母親を施設に入れることを。施設のスタッフが専門的に面倒を見てくれる、もうこれ以上、自分が限界を迎えるわけにはいかない。
「ごめんね、ママ。でもこれが一番お互いのためだよ…」母親に言っても、母親は聞いているのか、ただ涙を流すだけだった。
施設に入れる瞬間、母親は「帰りたい…」と泣き叫び、彼女も一緒に泣きたくなった。でも、彼女はその場を離れるしかなかった。自分の心の中で、ずっと感じていた罪悪感を振り払うように、思い切ってドアを閉めた。
数ヶ月後、再び施設を訪れた彼女は、驚くほど穏やかな母親の表情に目を見張った。
以前のように、ただ「帰りたい」と言い続けていた母親が、今は「今日はとても楽しかったよ」と言って微笑んでいた。
その瞬間、彼女は深く息を吸って、涙を流した。「私、やっと間違ってなかったんだって、思えるようになった。」と心の中で呟きながら。
本当は、母親に対しても自分に対しても、ずっと心の中で許せなかった。でも、今はその選択が正しかったと思えた。母親が少しでも幸せに過ごせる場所を提供したこと、それが何よりも大切だった。
これからは、母親と笑顔で会える日々が戻ってくる。
そして、あたしもやっと、自分の時間を取り戻せる。自分を取り戻すために、もう一度、前に進もう。