「すみません…少しだけ、赤ちゃん見てもらえませんか」
チャイム越しに聞こえたその声は、小さくて、震えていて、でもどこか必死だった。
正直、最初は一瞬だけ迷った。
だって私たちは、顔を合わせたら軽く会釈するだけの、ただの隣人だったから。
でもドアを開けた瞬間、その迷いは消えた。
顔色の悪いお母さん。
額にうっすら汗がにじんでいて、立っているのもやっとという様子。
腕の中では、真っ赤な顔で泣き続ける小さな赤ちゃん。
「生理痛がひどくて…頭も痛くて…少しだけ、横になりたくて…」
言葉の途中で、もう限界なんだと分かった。
「大丈夫ですよ、任せてください」
そう言って赤ちゃんを抱き上げた瞬間、思っていたよりもずっと軽くて、
でもその泣き声は、胸の奥に響くくらい強くて、まるで「助けて」って叫んでいるみたいだった。
お母さんは何度も「すみません、本当にすみません」と頭を下げて、
そのまま隣の部屋に入っていった。
扉が閉まる音がして、
部屋に残ったのは、私と、泣き続ける赤ちゃん。
ゆっくり背中をトントンして、少し体を揺らしてみる。
最初は全然泣き止まなくて、
「大丈夫、大丈夫だよ」って、誰に言ってるのか分からない言葉を、何度も繰り返していた。
しばらくして、赤ちゃんの呼吸が少しずつ落ち着いてきて、
気づいたら、そのまま私の腕の中でスヤスヤ眠っていた。
あまりにも無防備な寝顔で、
さっきまであんなに泣いていたのが嘘みたいだった。
そっと布団に寝かせても起きなくて、
途中でオムツを替えても、目を覚まさない。
その小さな存在を見ていると、
なんだか部屋の空気まで静かになった気がした。
その間に、キッチンを借りて、簡単に肉じゃがを作って、
冷蔵庫にあったきゅうりで副菜も一品。
大したことじゃないけど、少しでも体が楽になればいいなと思って。
しばらくして、部屋の扉が静かに開いた。
「すみません…」
そう言って出てきたお母さんは、さっきよりも少しだけ顔色が戻っていたけど、
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