父が亡くなった。
病院から連絡が来た夜、私は涙も出なかった。
ただ頭が真っ白で、
「もう会えないんだ」
それだけがずっと胸の中を回っていた。
でも。
そんな私たちをよそに、長男の兄だけは異様に張り切っていた。
「葬式は盛大にやるぞ」
その一言から、全部が始まった。
兄はまるでイベント会社の社長みたいに、次々と話を進めた。
豪華な祭壇。
高級寿司。
高級酒。
生演奏の楽隊。
坊主も何人も呼ぶ。
私は途中で何度も言った。
「そこまでしなくても……」
「父さん、派手なの嫌いだったじゃん」
でも兄は机を叩いて怒鳴った。
「親父を惨めに送る気か!?」
「親不孝者!!」
その場の空気が凍った。
母も妹も黙った。
“葬式で揉めるなんて縁起が悪い”
そんな空気だった。
だから誰も逆らえなかった。
でも私は、ずっと違和感があった。
兄が呼んでいる人間。
父の友人より、兄の仕事関係ばかりだった。
しかも通夜の席では、兄は涙よりも“接待”に必死だった。
「飲め飲め!」
「今日は親父のためだ!」
高い酒を開けて、自分の仲間たちと騒ぐ。
まるで父の葬式じゃなく、兄の宴会だった。
さらに驚いたのは、兄の友人たちの言葉だった。
「さすが長男さん!」
「ここまで立派にやるとは!」
その瞬間、私は気づいてしまった。
ああ。
この人。
父を送ってるんじゃない。
“長男として立派な自分”を見せたいだけなんだ。
そして葬式が終わった後。
本当の地獄が始まった。
兄が突然、分厚い封筒を持ってきた。
「じゃあ精算な」
中を見て、私は固まった。
請求額――
150万円。
しかも兄弟全員で負担。
母まで含めて払えと言う。
私は思わず声を上げた。
「は!?!?」
「こんな金額になる!?」
すると兄は一気に不機嫌になった。
「親父のために使った金だぞ!!」
「文句あるのか!?」
その場の空気がまた凍る。
でも今度は、私は黙れなかった。
明細を見た瞬間、違和感が爆発した。
・高級クラブ代
・“接待費”
・謎の飲食費
・意味不明な現金支出
さらに。
見覚えのある店の名前まで混ざっていた。
兄が昔からツケを溜めていた居酒屋だった。
私は背筋が寒くなった。
まさか。
兄。
自分の借金まで、葬式代に混ぜてる?
そこから私は全部調べた。
領収書。
香典帳。
出席者リスト。
さらに直接、葬儀会社にも連絡した。
すると担当者が困った声で言った。
「え……こちら、その金額は請求しておりませんが……」
私は完全に凍った。
やっぱりだ。
兄は“父の葬式”を使って、
自分の見栄と借金を処理していた。
後日。
親族会議が開かれた。
兄は最初、自信満々だった。
「親父のために頑張ったのは俺だぞ」
でも私は、テーブルに領収書を全部並べた。
葬儀会社の正式見積もり。
接待費。
飲み代。
兄個人の借金。
全部。
部屋の空気が止まった。
母が震える声で言った。
「……これ、何?」
兄の顔色が変わった。
「いや、それは……」
さらに私は静かに言った。
「父さんのためじゃなかったんだね」
「兄ちゃん、“長男として立派な自分”を見せたかっただけじゃん」
兄は何も言えなかった。
さっきまで偉そうだった親戚たちも、完全に黙っていた。
私は最後に、ずっと飲み込んでいた言葉を吐き出した。
「親父を利用してたのは、俺たちじゃない」
「“見栄”で葬式を食い物にしたのは、お前だろ」
兄は俯いたまま、一言も返せなかった。
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