閉店まであと三十分くらいだった。
洗ったボウルを片付けながら、「今日はもうお客さん来ないかな」なんて考えていた時、小さな声がした。
「……チョコレートのケーキ、1つください」
顔を上げると、小学五〜六年くらいの女の子が一人で立っていた。
制服でもなく、私服でもなく、家から飛び出してきたみたいな格好。
私は思わず聞いた。
「偉いね、おつかい?」
でも、その子はうつむいたまま、小さく首を振った。
何か言いたそうなのに、言葉が出てこない。
私はなんとなく察して、少しだけ優しく聞いた。
「誰かに渡すの?」
すると、その子はぽつりと言った。
「……ママと喧嘩したから」
その瞬間、胸がぎゅっとなった。
ショーケースの中には、ちょうど小さなチョコレートケーキが一つだけ残っていた。
私は箱に詰めながら聞いた。
「メッセージとか付ける?」
でも、その子は困った顔をした。
何を書けばいいのか分からないんだろう。
だから私は、お節介だと思いながらも笑って言った。
「“ママごめんね”って書いとく?」
するとその子は、少しだけ顔を上げて、こくんと頷いた。
私はハート型のプレートに、
“ママ ごめんね”
と書いてケーキに乗せた。
それを見た瞬間、その子はやっと少しだけ笑った。
本当に、ほんの少しだけ。
慣れない手つきで財布を開けて、小銭を一枚ずつ数えていた。
何度も落としそうになりながら、それでもちゃんと自分で払って、最後に小さな声で言った。
「……ありがとう」
その背中を見送りながら、
「ちゃんと仲直りできるといいな」
と、私はぼんやり思っていた。
でも、その十分後だった。
店のドアが勢いよく開いた。
振り向くと、一人の女性が息を切らしながら立っていた。
髪も乱れて、顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
その瞬間、さっきの女の子が立ち上がった。
「ママ……」
次の瞬間。
母親はその子を思いきり抱きしめた。
「ごめん、ごめんね……!
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