僕が退職することになった時、
部署のみんなが送別会を開いてくれた。
店には後輩たちが集まっていた。
「寂しくなりますよ」
「次の会社でも頑張ってください」
みんな笑っていた。
でも——
僕は、ずっと気になっていた。
来ていない。
一番かわいがっていた後輩だけが。
名前は佐藤。
入社一年目の頃から、ずっと面倒を見てきた。
不器用で、ミスも多かった。
電話対応で固まる。
資料は何度も作り直し。
怒られるたび、すぐ顔に出る。
正直、放っておけなかった。
だから飲みにも連れて行ったし、
仕事もかなり教えた。
終電ギリギリまで残って、
一緒に資料を直したこともある。
「すみません…」
泣きそうな顔で頭を下げる佐藤に、
僕は何度も言った。
「失敗してもいいから、逃げるな」
そのたびに、
佐藤は小さくうなずいていた。
だからこそ。
最後の日くらい、
来ると思っていた。
でも来なかった。
LINEも一言だけ。
『すみません、行けません』
理由もない。
正直、腹が立った。
「最後くらい来いよ」
酔いながら、何度も思った。
周りは気を遣っていた。
「急用じゃないですか?」
「体調悪いとか…」
でも、僕の中では整理できなかった。
あんなに面倒見たのに。
結局、送別会はそのまま終わった。
どこか、少し寂しいまま。
翌日。
最終出社日だった。
私物を片付けていると、
後ろから声がした。
「おはようございます」
振り向くと、佐藤だった。
いつも通りの顔。
でも、少しだけ目が赤かった。
佐藤は無言で、
一つの封筒を差し出した。
「昨日はすみませんでした」
それだけだった。
僕は思わず聞いた。
「なんで来なかったんだよ」
少し強い口調だったと思う。
佐藤は一瞬黙った。
それから、小さく笑った。
「僕、絶対泣くと思ったんです」
「……泣いたっていいだろ」
そう返した僕に、
佐藤は首を横に振った。
「みんなの前では、無理でした」
「だから、書きました」
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