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マラソン最速でゴールした男は、拍手も栄光も受け取らず、そのまま走り続けた...
2026/01/26

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スタートの号砲が鳴った瞬間、街全体が一気に目を覚ました。

何千もの足音が同時に地面を打ち、一定のリズムで前へ流れ出す。マラソンランナーたちは一斉に走り出し、沿道からは歓声が波のように押し寄せる。タイマーが点灯し、赤い数字が動き始めた。

その先頭集団に、ひとりだけ場違いな人物が紛れ込んでいた。

濃い色の制服を着て、四角い箱を背負っている。ゼッケンはなく、競技用のウェアでもない。それなのに、なぜか最前列にいる。

一瞬、空気が止まった。

「え? あれ何?」
「コスプレ?」
「今どきのマラソン、そんなのアリ?」

誰かがスマホを構えた。

「宅配便のコスプレ選手? ずいぶん本格的だな」

彼は誰の方も見なかった。

号砲の余韻が消えると同時に、全員が前へ飛び出す。
彼も走り出した。

ジョギングではない。演出でもない。

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迷いのない全力疾走だった。

笑い声はすぐに消えた。

彼は遅れなかった。
それどころか、先頭集団に食らいつき、じわじわと前へ出ていく。

背中の箱が上下に揺れ、鈍い音を立てる。荒い呼吸と足音が重なった。

隣を走るプロ選手が、ちらりと彼を見る。

「パフォーマンスですか?」

返事はない。

「大会出てるんですか?」

彼は少しだけ顔を向け、息を整える間もなく腕時計を見た。

10時41分。

「いいえ」

「じゃあ、なんでそんなに…」

「仕事中なんです」

選手は言葉を失った。

その間にも、後続のランナーたちは次々と引き離されていく。
気づけば、彼らは完全に先頭に立っていた。

コースはまっすぐ伸び、ゴールゲートがはっきりと見える。
実況の声が一段高くなる。

「現在トップは先頭集団――あれ? 画面に映っている、制服姿のランナーは一体……?」

観客席がざわつく。

「さっきのコスプレじゃない?」

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「なんで先頭にいるの?」
「本物の選手じゃないの?」

カメラは二人を追い続ける。

一人は研ぎ澄まされた身体のアスリート。
もう一人は、冗談だと思われていた“コスプレ”。
制服は汗で色が変わり、顔色は白い。

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