21時18分、家族LINEが鳴った。
5人しかいないグループ。
パパ、ママ、私、弟、そして祖母。
いつも通りなら、
「お疲れ」か「ご飯どうする」みたいな、どうでもいいやり取りが流れるだけ。
でもその日は違った。
ポン、と一枚の写真が送られてきた。
開いた瞬間、手が止まった。
誕生日ケーキ。
ロウソクが立っている。
そしてその横で、笑っているパパ。
——ここまではいい。
問題は、その隣にいた。
知らない女。
距離が近すぎる。
顔を寄せて、ほぼキスしそうな距離。
しかも、明らかに“家族じゃない空気”。
一瞬、意味が分からなかった。
「……え?」
誰かの誤送信?
でも送信者は、パパ。
既読が、ひとつ、またひとつと増えていく。
ママも見てる。
弟も。
祖母も。
でも、誰も何も言わない。
静かすぎる。
その沈黙を壊したのは——
またパパだった。
『今日ケーキありがとうな』
画面を見たまま、思考が止まった。
——は?
いや、ちょっと待って。
今、何送ったか分かってる?
そのまま続けて、
『明日早いから先寝るわ』
普通の父親みたいな文章。
いや、普通“すぎる”。
さっきの写真と、まったく繋がってない。
既読は、もう全員についている。
でも、誰も返さない。
ママのアイコンも、沈黙したまま。
その異様な空気の中で、
私はスマホを握り直した。
心臓がうるさい。
でも、目は冷えていた。
このまま流す?
なかったことにする?
——無理でしょ。
私は、さっきの写真を長押しした。
もう一度、グループに上げる。
そして、短く打った。
『これ、誰?』
送信。
一秒。
二秒。
既読が、また増える。
パパのアイコンに、「既読」がついた。
その瞬間、グループが止まった。
完全な静止。
でも、その沈黙は長く続かなかった。
『……え?』
最初に反応したのは、パパだった。
続けて、
『何のこと?』
とぼけた。
私は画面を見ながら、小さく息を吐いた。
やっぱりそう来るんだ。
『さっきの写真』
もう一度だけ送る。
間髪入れずに既読がつく。
『あー、それ』
軽い。
異様に軽い。
『会社の人』
一瞬、笑いそうになった。
会社の人。
あの距離で?
あの顔で?
私はすぐに打ち返した。
『会社の人と、あんな顔で写真撮るの?』
既読。
沈黙。
数秒後——
『ちょっと酔ってただけ』
言い訳が雑すぎる。
そのときだった。
今まで黙っていたママが、初めて動いた。
『……その人、誰?』
短い一文。
でも、重さが違った。
既読が一気につく。
パパは、すぐには返さなかった。
その沈黙が、全部を物語っていた。
『いや、だから会社の——』
途中で送信が切れた。
打ち直してるのが分かる。
でも、その前に私は送った。
『じゃあさ』
一拍置いて、
『なんで“家族LINE”に送ったの?』
既読。
沈黙。
誰も動かない。
数秒後、祖母が初めてスタンプを送った。
——「?」
その一つで、空気が決壊した。
『え、どういうことなの?』
『あの女の人は誰なの?』
祖母のメッセージが続く。
パパは、完全に詰まっていた。
『いや、その……』
『間違えただけで』
“間違えた”。
その一言で、すべてが確定した。
私は、最後に一つだけ送った。
『間違えたのは送信先じゃなくて、やってることじゃないの?』
既読。
止まる。
そして——
ママのメッセージ。
『もういい』
たった三文字。
でも、それで終わった。
グループの空気が、一気に変わった。
パパからの返信は来なかった。
既読だけが、残ったまま。
そのあと、グループは誰も何も送らなくなった。
静かなまま。
でも、もう元には戻らない。
私はスマホを置いて、天井を見た。
さっきまで普通だった“家族”が、
たった一枚の写真で壊れた。
いや、違う。
壊れてたのが、見えただけだ。
しばらくして、通知が一つ来た。
個別LINE。
パパから。
『さっきのは誤解だから』
画面を見て、少しだけ考えて、
そのままブロックした。
——誤解で済むなら、
最初から、こんなことにはならない。
静かにスマホを伏せる。
部屋の中は、いつもと同じなのに、
もう、同じ家族じゃなかった。
私は小さく息を吐いて、呟いた。
「バレてないと思ってたの、そっちだけだよ」
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