元旦那の親戚の葬式だった。
正直、行きたくはなかった。
離婚してもう半年。関わる理由なんて、本当は一つもない。
でも、子どもがいる。
「最後くらいは顔を出した方がいい」と言われて、私は黒い服に袖を通した。
会場に入ると、久しぶりの顔ぶれが並んでいた。
視線は、少しだけ冷たい。
「久しぶりねぇ」
そう声をかけてきたのは、元義母だった。
相変わらずの笑顔。
でも、その奥にあるものは変わっていない。
私は一つ、思い出していた。
——あのタッパー。
離婚前、何度も料理を持たされた。
「孫のために」と言いながら、結局は私が作ることが前提だった。
そのときに貸した、お気に入りのタッパー。
少し値段はしたけど、密閉もしっかりしていて、使いやすかった。
結局、返ってきていない。
このままでもいいと思っていた。
でも今日、顔を合わせたからこそ、ふと思い出した。
私は軽く頭を下げて、できるだけ普通の声で言った。
「あの、前にお貸ししたタッパーなんですけど……もしあれば返していただけますか?」
一瞬、間があった。
そして次の瞬間、元義母は小さく笑った。
「え?タッパー?」
周りに聞こえるような声で、わざとらしく首をかしげる。
「100均のやつでしょ?あれ」
……違う。
そう言いかけたけど、言葉が出なかった。
そのまま、彼女は続けた。
「そんなの催促するなんて……」
一拍置いて、口元を歪める。
「離婚して、よっぽど生活苦しいのねぇ」
くすくす、と笑い声が漏れた。
近くにいた親戚も、気まずそうに目を逸らすだけで、誰も止めない。
胸の奥が、一瞬で熱くなった。
でも、私は何も言わなかった。
ここで言い返したら、
「やっぱりそういう人よね」って顔をされるのが分かっていたから。
元義母は満足したのか、手をひらひらさせた。
「はいはい、もういいわよ。そんな安物、返さなくていいから」
そう言って、話を切り上げた。
——終わった。
そう思った、そのときだった。
「そうだ、これ持って帰りなさい」
元義母が、後ろに置いてあった袋を持ち上げた。
「孫にね。手作りだから」
差し出されたのは、料理の入ったタッパー。
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