子どもが産まれて、もうすぐ4ヶ月。
本当なら、とっくに届いているはずだった。
健康保険証。
去年の12月初め、
夫は「もう申請した」と言った。
病院には、
「申請中なら待てます」と言われていた。
だから、最初は信じて待っていた。
でも——来ない。
1ヶ月。
2ヶ月。
3ヶ月。
さすがにおかしいと思って、
私は聞いた。
「いつできるの?」
夫は目も合わせずに言った。
「もうすぐ」
それだけ。
何度聞いても、
同じ言葉しか返ってこない。
具体的な話は、一つも出てこない。
その頃、
病院からまた連絡が来た。
「今週中にお支払いをお願いできますか」
もう、限界だった。
私はもう一度、聞いた。
「ちゃんと確認してる?」
「してるって」
「いつできるって?」
「だから、もうすぐ」
——また、それ。
私は思い切って言った。
「じゃあ私、直接確認する」
その瞬間だった。
夫の表情が変わった。
「やめて」
「絶対やめて」
「なんで?」
少し間があって、
低い声で言われた。
「それやったらクビになる」
……クビ?
意味が分からなかった。
「家族が確認するだけで?」
「いいからやめて」
その言い方が、
強すぎた。
——そのとき、
はっきり思った。
(隠してる)
その日は何も言わなかった。
でも、決めた。
——自分で確認する。
次の日、
共済に電話した。
事情を説明して、
名前を伝えた。
数秒の沈黙。
そして返ってきたのは、
「ご本人様にお伝えします」
それだけ。
何も教えてくれない。
もう一度聞いた。
「状況だけでも教えていただけませんか」
一瞬、間があった。
そして、
少し言いにくそうに言われた。
「……こちらからはお答えできません」
その“間”が、
妙に引っかかった。
(普通、こんな言い方する?)
その日の夜。
私は通帳を開いた。
普段あまり見ていなかったページ。
そこに、
同じタイミングで、
同じ金額の引き落としが並んでいた。
見覚えのないもの。
金額は、決して小さくない。
(……これ、何?)
頭の中で、
さっきの“答えられない”が浮かぶ。
でも、
すぐに打ち消した。
(いや、まさか)
そんなこと、あるわけない。
そう思いたかった。
そのとき、
夫が帰ってきた。
私は聞いた。
「これ、何の引き落とし?」
通帳を見せた。
夫は一瞬だけ黙った。
本当に一瞬だけ。
でも、
はっきり分かった。
「……仕事の関係」
そう言った。
「何の?」
「お前には関係ないだろ」
——その一言で、
全部が変わった。
関係ない?
私に?
子どものことなのに?
私は何も言わなかった。
その代わり、
静かに思った。
——もういい。
もう、
“聞く側”はやめる。
次は、
“確かめる側”になる。
保険証も、
お金も、
全部つながってる。
ねえ、
これ、本当にただ遅れてるだけ?
それとも——
私が知らないところで、
もう一つの生活が、
動いてるだけ?
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