マレーシア旅行の帰りだった。
空港はかなり混んでいて、
出国ゲートにも長い列ができていた。
娘はまだ小さい。
だから最初から決めていた。
絶対に、一人にしない。
僕と妻で娘を挟む形で並んで、
そのまま三人一緒に通るつもりだった。
いつもの家族旅行の延長。
そのはずだった。
僕が先に通る。
ピッ。
問題なし。
次に娘。
でも——
機械が突然、赤く光った。
エラー音。
係員が近づいてきた。
僕も妻も、すぐ娘の方へ行こうとした。
その瞬間だった。
係員が妻を止めた。
「You. Go first.」
先に行け。
そう言われた。
妻は困った顔で説明した。
「子どもがいるので」
でも係員は首を振った。
「You already passed.」
「戻れない」
その間にも、娘は完全に固まっていた。
小さい手でパスポートを握りしめたまま、
不安そうに僕たちを見ている。
胸が嫌な感じに締めつけられた。
嫌な予感しかしなかった。
係員は娘に言った。
「Go there.」
指さした先は、
有人審査の列だった。
つまり——
娘一人で行け、ということ。
一瞬、頭が真っ白になった。
いやいや、待ってくれ。
子どもだぞ?
知らない国で、
言葉も完璧じゃない。
しかもまだ小さい。
そんな子を、一人で?
妻が必死に訴えた。
「Please. I go with her.」
「子ども一人にはできません」
でも返ってきたのは冷たい言葉だった。
「No.」
「You cannot return.」
完全にルールだけ。
そこに“子ども”としての配慮はなかった。
娘の顔がどんどん不安そうになっていく。
今にも泣きそうだった。
でも、僕たちも動けない。
どうしていいか分からなかった。
その時だった。
後ろに並んでいた外国人夫婦が、
突然声を上げた。
「Ridiculous!」
空気が変わった。
かなり怒った口調だった。
英国人の夫婦だった。
旦那さんが係員に向かって、
信じられないという顔をしている。
奥さんの方は、
すぐに娘の前まで来てくれた。
そして、しゃがんで、
娘と目線を合わせた。
「It’s okay.」
「I stay with you.」
大丈夫。
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