娘からLINEが来たのは、夕方だった。
「今ありえないこと起こったんだけど」
嫌な予感がした。
話を聞くと、渋谷の美容クリニックで施術後にパックをされたあと、
「少しお待ちくださいね」
そう言われたまま、スタッフが30分以上戻ってこなかったらしい。
パックは完全に乾燥。
肌に張り付いて痛くなっても誰も来ない。
娘は途中から不安になって、
自分で剥がして帰ってきたという。
私はすぐ言った。
「それ、返金レベルだから」
でも娘は、昔から強く言えない子だった。
「大丈夫…もういいよ…」
いや、よくない。
お金を払ってる。
しかも美容施術。
適当に放置していいわけがない。
私は娘に言った。
「とりあえず返金の連絡して」
でも案の定だった。
クリニック側は、
明らかに娘を舐めていた。
「お待たせして申し訳ありませんでしたぁ〜」
軽い謝罪だけ。
返金について聞いても、
「施術自体は終了しておりますので」
「返金対応は難しくて…」
完全に“押せば引くタイプ”だと思われていた。
その瞬間、私は決めた。
「あ、じゃあ私行くわ」
翌日。
私は直接クリニックへ向かった。
受付には昨日と同じスタッフ。
私を見るなり、
ちょっと空気が変わった。
私は笑顔で言った。
「昨日、娘がお世話になった件なんですけど」
でも相手はまだ軽かった。
「申し訳ありません〜」
「ですが施術は——」
その瞬間、私はバッグからカードを出した。
このクリニックのVIPカード。
娘だけじゃない。
私自身、長年ここに通っていた。
しかも累計でかなり使っている。
スタッフの顔色が変わった。
私は静かに言った。
「娘だから舐めました?」
受付、固まる。
私は続けた。
「強く言わない子には、適当に謝れば終わると思いました?」
周囲が静かになった。
さらに私は、
スマホに保存していた履歴を見せた。
今までこのクリニックで使った金額。
総額、50万円以上。
私はカードをテーブルに置いて言った。
「返金してください」
「あと、このカードに入ってる残額も全部返してください」
スタッフ、完全に焦り始める。
奥から責任者が飛んできた。
でも私は止まらなかった。
「30分放置ですよ?」
「美容施術で?」
「娘、肌痛めて泣いて帰ってきたんですけど」
責任者は平謝りだった。
でも私は最後にはっきり言った。
「一番腹が立ってるの、放置したことじゃないんです」
「“この子なら押し返してこない”って態度なんですよ」
空気が止まった。
たぶん図星だったんだと思う。
その後、クリニック側は態度を一変。
施術代6500円は全額返金。
さらにVIP残高も全額返金対応。
後日、正式な謝罪連絡まで来た。
帰り道、娘が小さく言った。
「なんか…ごめんね」
私は即答した。
「なんで?」
「嫌だったことを“嫌だった”って言うの、悪いことじゃないから」
多分世の中って、
強く出ない人ほど軽く扱われることがある。
でも——
だからって、
我慢する側が悪いわけじゃない。
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