私は15年もの間、夫の母を介護してきた。愛する夫を突然事故で失い、その後、義母との静かな生活が始まった。最初は家族としての温かさを感じていた。しかし、年月が経つにつれ、私はただの「義母の介護人」となり、私の存在はどんどん薄れていった。
ある日、義母が私に言った言葉が、私の心を大きく揺さぶった。それは一瞬の出来事だったが、その言葉が私の人生を大きく変えることになる。
第1章: 変わりゆく日常
朝5時、東の空がわずかに明るくなる前に、私の一日は始まる。隣の寝室から聞こえる「か、か、か…」という音。それは義母が目を覚ました合図だ。義母をベッドから車椅子に移し、日々の介護が始まる。
15年前、私はまだ新婚で、家族として楽しい日々を送っていた。しかし、夫を失ってからの生活は一変し、私はただ無心で介護に没頭する日々が続いた。最初は愛する人を支えるつもりで始めたが、次第にその愛情が冷め、義母への感情も薄れていった。
義母は徐々に私を「家族」として認めなくなり、私がどんなに尽くしても、感謝の言葉ひとつもなかった。
私はただ、義母の世話をする「義務」を感じていた。世間では「良い嫁」として評価されていたが、家の中ではただの「他人」だった。
第2章: 予期しない言葉
ある朝、義母が突然、私に話しかけてきた。
「まり子さん、ちょっと大事な話があるの。」
その言葉に、私は嫌な予感を感じた。義母が手に持った封筒には、司法書士事務所の名前が印刷されていた。義母は何気ない調子で言った。
「遺言の件、まとまったのよ。あの家も預金も全部、さおりに残すことにしたわ。」
その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。「私は何ももらえないのか?」その問いが頭をよぎった。義母は私にこう言った。
「あなたは他人だから、当然よ。」
その言葉が私の胸を深く突き刺さった。私は15年間、彼女のために尽くしてきた。そのすべてが、たった一言で崩れ去った瞬間だった。
第3章: 冷静な反撃
私はその後、冷静になり、自分の行動を見直し始めた。感情的に反応しても何も生まれない。必要なのは事実を記録し、冷静に次のステップを踏むことだ。
介護の内容、かかった費用、すべてをノートに記録し始めた。
これまで家族だからと曖昧にしてきたすべてを、客観的な数字で置き換えていった。義母はその変化に気づかなかったが、私はすでに次の手を打っていた。
ある日、義母が娘に電話をかけて、自分の無力さを訴えているのを、私は録音していた。その証拠は私にとって重要な武器となる。
第4章: 終わりの日
義母の娘、さおりからの電話が届いた。最初は「お母さん、介護は大丈夫よ」と言っていたが、電話を切る直前にはこんな言葉を残した。
「悪いけど、海外不倫が決まったの。」
その瞬間、義母のすべての希望は完全に崩れ去った。
義母は、今まで一度も「感謝の気持ち」を示してこなかった。しかし、その時だけは、初めて私の名前を口にした。
「まり子さん、お願い、戻ってきて。」
それは心からの懺悔ではなく、自分の都合が悪くなったことへの後悔だった。
第5章: 新しい始まり
義母が施設に入居する日、私は冷静に荷物をまとめ、家を出る準備を整えた。義母の介護を終えるという通知書を手にし、義母に告げる。
「これからは他人として関係を整理します。」
義母は怒り、私を脅そうとしたが、私は全く動じなかった。私はこれまでのすべての思いを込めて、家を出る準備をした。
最後の夜、私は夫の写真を見つめながら静かに呟いた。
「裕介さん、ごめんなさい。私はもう、あなたの約束を守ることができないかもしれない。」
そして、私は家を出て、義母を施設に送り届けた。
エピローグ
車の中で、私は静かに考えた。これからは自分の人生を生きる時だと。義母との関係は終わったが、私はまだ新たな一歩を踏み出したばかりだった。
私にとって、これが本当の「自由」の始まりだ。もう後ろを振り返ることはない。