17時、子どもが椅子に座った瞬間、私はもう後悔していた。
ドアを開けた時から空気が重い。混んでもいないのに、「いらっしゃいませ」は口だけ。目が笑っていない。子どもと手をつないで入っただけなのに、視線が一瞬止まる。胸の奥に小さな違和感が落ちた。
――子ども連れ、嫌だったかな。
でも子どもは嬉しそうにメニューを見ている。最近焼き鳥が好きで、今日は通りがかったから入っただけ。常連でも特別な客でもない。ただご飯を食べに来ただけ。
焼き鳥と、子どもが好きな焼きおにぎり。味は塩で頼んだ。
最初の串を見て、私は箸を止めた。**片側は焼き色、反対側は白くて湿っぽい。**まるで茹でたみたい。
子どもは気づかずにかじった。一瞬、眉がきゅっと寄る。でも何も言わずに飲み込む。
「どう?」
「…なんかちがう」小さな声。
私も食べる。塩の味がしない。ただの鶏肉。しかも生ぬるい。
まだ我慢できる。ミスかもしれない。だから柔らかく言った。
「すみません、少し焼き直してもらえますか?」
店員は無言で皿を下げた。
戻ってきた串を見て、体の奥が冷えた。**今度は真っ黒。**焼いたんじゃない、炭。表面は焦げの殻みたいで、触ると黒い粉が落ちる。焼きおにぎりも同じだ。
子どもは一口かじって止まった。
「ママ、にがい…」
その一言で、何かが切れた。
怒りより先に、我慢しようとしている子どもが悔しかった。
レジへ行く。
「これ、普段通りの焼きおにぎりですか?」
店長らしき人が顔を上げる。
首元でジャラジャラ鳴るネックレス。口の端だけ上がる笑い。
「え?どう見ても普通ですけど?皆さんにこれ出してますけど?」
笑っているのに、目は睨んでいる。
ああ、そうか。これは失敗じゃない。態度だ。
私は皿をカウンターに置いた。
「じゃあ、あなたが一口食べてください。」
店内が静かになる。私ははっきり言った。
「これは店長呼び出し確定案件。泣き寝入りはダメです🙅 お金発生してるのできっちり言わないとです。」
空気が変わった。
隣のテーブルの人が自分の串を見直す。
後ろから声が上がる。
「これ、ちょっと焦げすぎじゃない?」
別のテーブルの客が焼きおにぎりを持ち上げて見て、
「…え、うちのも焦げてない?」と漏らす。
さっきまで“私が面倒な客”だった空気が、**“店の料理、大丈夫か?”**に反転した。
店長の顔から笑いが消える。
私は子どもの手を握る。
「行こう。」
ぎゅっと握り返してくる小さな手。
ドアを開ける前、振り返らなかった。けれど分かっていた。
見られていたのは、私じゃない。
あの皿の上の黒い料理だった。
お金を払う客は、受け身で我慢するために来ているんじゃない。
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