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朝、まだ頭がぼんやりしている時間に、またその声が飛んできた。
「この唐揚げ、大きすぎる」
「サラダが草みたいで食べづらい」
「玄米は硬いから白米にして」
私は一瞬、箸を止めた。
……また始まった。
健康のことを考えて、栄養バランスも調べて、できるだけ手間をかけて作っている朝食。夜遅くまでレシピを見て、少しでも体にいいものを、と工夫してきた。
それなのに、返ってくるのはいつも“文句”だった。
「これじゃない」
「こうじゃない」
「普通でいいのに」
普通って何?
私がやっていることは、全部“無駄”なのか?
その日、私の中で何かがプツンと切れた。
私はゆっくりと立ち上がり、静かにエプロンを外した。
そして、彼の前にそっと差し出した。
「じゃあ、今日から自分で作って」
彼は一瞬きょとんとした顔をした。
「は?なんで俺が?」
私は淡々と答えた。
「あなたの“理想の朝食”、私はもう分からないから」
そのままエプロンをテーブルに置き、私はキッチンから離れた。
最初は余裕そうだった。
「別に簡単だろ、料理くらい」
そう言いながら冷蔵庫を開ける音がした。
しかし、数分後。
ガタッ。
「え、これどうやって切るの?」
「火、これでいいの?」
キッチンから焦りの声が聞こえ始めた。
私はリビングで何も言わずにテレビを見ていた。
そして、しばらくして——焦げた匂いがした。
キッチンに行くと、そこには見るも無残な朝食があった。
真っ黒な卵焼き。
べちゃべちゃのサラダ。
中途半端に生のままの鶏肉。
彼は無言でそれを見ていた。
「……なんか違う」
その一言に、私は初めて笑いそうになった。
違うのは当たり前だろう。
あなたが毎日私に言っていた“違う”の意味が、ようやくそこにあった。
その夜。
私は何も作らなかった。
代わりに、コンビニで買ったお弁当をテーブルに並べた。
唐揚げも、サラダも、白米も全部“普通のやつ”。
彼は黙ってそれを見ていた。
「……今日の飯、それだけ?」
私は箸を置いて、ゆっくり言った。
「あなたの理想は、あなたにしか作れないよ」
そして一口食べながら、続けた。
「私は“文句を言われるために”料理してるわけじゃない」
部屋が静かになった。
テレビの音だけがやけに大きく感じる。
彼はしばらく何も言わなかった。
そして小さく、
「……俺、ちょっと言いすぎてたかもな」
そう呟いた。
私はそれに対して、何も返さなかった。
ただ静かに、お弁当を食べ続けた。
その日以来、朝食に文句は出なくなった。
むしろ時々、
「これ、どうやって作ったの?」
そんな言葉が出るようになった。
私は思った。
“完璧な朝食”なんてものは存在しない。
あるのは、作る人の時間と気持ちだけだ。
それを当然のように受け取る人には、一度「失う経験」が必要なのかもしれない。
そして私は今日も普通の朝食を作る。
ただしもう、“評価されるため”ではない。
自分と、食べる人のためにだけ。