「また、お前か。」
雨の中、駐車場に入った瞬間、私は思わずそうつぶやいた。
私の契約している駐車スペースに、あの白い日産ノートがまた停まっていた。
しかも堂々と、まるで自分の場所みたいな顔をして。
ワイパーには、前回私が残した注意の紙が挟まれたままだった。
「無断駐車はやめてください」
そう書いた紙を見ても、この人には何も響かなかったらしい。
一度目は、私もまだ我慢した。
間違えただけかもしれない。
誰かの来客かもしれない。
近所同士で揉めるのも面倒だし、できれば穏便に済ませたかった。
だから写真だけ撮って、紙を挟んで、それで終わりにした。
でも、二度目は違う。
同じ車。
同じ場所。
同じように、私の駐車場を勝手に使っている。
これはもう「うっかり」ではない。
「バレても大丈夫」と思っている人間の停め方だった。
私はその場でスマホを取り出した。
車の全体。
ナンバー。
駐車位置。
ワイパーに挟まれた紙。
雨で濡れたフロントガラス。
全部、無言で撮った。
その時、隣の住人が通りかかって言った。
「また停められたの?でもさ、車に傷つけられたわけじゃないし、警察まで呼ばなくても……」
私はその言葉を聞いて、少しだけ笑ってしまった。
傷つけられていない?
では、私が帰宅して、自分の駐車場に停められず、遠くのコインパーキングまで行く時間は?
雨の中、荷物を持って歩いた労力は?
毎月きちんと払っている駐車場代は?
それらは、誰が返してくれるのだろう。
「すみません。今回は通報します」
私がそう言うと、隣人は少し気まずそうに黙った。
私は管理会社に連絡した。
前回も同じ車だったこと。
注意の紙を残したこと。
今日また同じ車が停まっていること。
写真も時間も残していること。
担当者は電話の向こうで、明らかに声の調子を変えた。
「二回目なんですね。では、こちらでも記録します。警察にも連絡してください」
その一言で、私は迷いを捨てた。
すぐに警察へ電話した。
数十分後、警察官が到着した。
私は感情的に怒鳴らなかった。
大げさに被害者ぶることもしなかった。
ただ、スマホの画面を開き、前回の写真と今回の写真を順番に見せた。
「一度目は注意だけにしました」
「でも今日、また同じ車が同じ場所に停まっています」
「私はここを契約していて、毎月料金を払っています」
警察官は静かにうなずいた。
そして車の情報を確認し、所有者へ連絡を取った。
しばらくして、ようやく車の持ち主が現れた。
傘も差さずに小走りで来たその人は、最初から不機嫌そうだった。
「いや、ちょっと停めただけなんですけど」
その言い方で、私は分かった。
この人は、悪いことをしたと思っていない。
面倒なことになったから、仕方なく来ただけだ。
警察官が落ち着いた声で聞いた。
「ここはあなたの契約駐車場ですか?」
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