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「ただ座っただけです」ガラガラの電車で、なぜか私の隣に座ってきた男性。リュックを広げて肘まで当ててきたので、私は黙って席を立ち…
2026/07/09

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電車に乗った瞬間、今日は静かに帰れそうだと思った。

昼過ぎの車内は驚くほど空いていて、向かいの座席も、少し離れた二人掛けも、ほとんど誰も座っていなかった。

私は二人掛けの窓側に座り、膝の上にバッグを置いて、ようやく一息ついた。

仕事で疲れていたし、誰にも邪魔されずに少しだけぼーっとしたかった。

ところが、次の駅で乗ってきた男の人が、なぜかまっすぐ私の方へ歩いてきた。

他にも席は山ほど空いている。

なのに、その人は当然みたいな顔で、私の隣に腰を下ろした。

その時点で、少し嫌な感じはした。

でも、ただ座っただけなら何も言えない。

私は少し体を窓側に寄せて、スマホを見るふりをした。

すると、その人は座った直後からリュックをガサガサ漁り始めた。

チャックを何度も開け閉めする音。

ビニール袋の音。

鍵なのか、小銭なのか、硬いものがぶつかる音。

それがずっと私の耳元で続いた。

しかも、リュックを探るたびに肘がこちらへ当たる。

一度目は我慢した。

二度目も、たまたまだと思おうとした。

でも三度目に、はっきり私の腕に当たった。

それでも相手は、謝るどころかこちらを見もしなかった。

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私は少しだけ体を引いた。

すると今度は、さらにリュックを大きく広げた。

まるで、私が避けるのを当然だと思っているみたいだった。

その瞬間、胸の中で何かが冷たくなった。

この人は席がないから隣に来たんじゃない。

空間の取り方を、最初から考えていない人なんだ。

いや、もしかしたら考えているのかもしれない。

「相手が避ければいい」と。

私は立ち上がった。

何も言わず、対面の一列まるごと空いている席へ移動した。

すると、その人が顔を上げて、少し不満そうにこちらを見た。

まるで私が失礼なことをしたみたいな顔だった。

私はその視線を無視して、座り直した。

そしてスマホを出し、車内の空席状況が分かるように写真を撮った。

もちろん、その人の顔は撮らない。

ただ、どれだけ席が空いていたか。

それなのに、わざわざ隣に座られたことが分かるように。

そこから一駅分、私はずっと落ち着かなかった。

移動したのに、なぜか相手の視線が気になる。

「自分が気にしすぎなのかな」

そんな考えも一瞬よぎった。

でも、すぐに消した。

気にしすぎじゃない。

嫌だと感じたなら、それが答えだ。

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次の駅に着いた時、私は立ち上がった。

すると、その人も同じタイミングで立った。

背中にぞわっとしたものが走った。

偶然かもしれない。

でも、もう偶然だと思って流す必要はないと思った。

ホームに降りた私は、そのまま改札の方ではなく、駅員さんのいる場所へ向かった。

男の人は少し離れたところで、まだこちらを見ていた。

私は駅員さんに、できるだけ落ち着いて話した。

「車内がかなり空いているのに、わざわざ隣に座られて、リュックを広げたり肘を何度も当てられたりしました」

「席を移動した後も視線が気になって、不安だったので相談したいです」

駅員さんはすぐに真剣な顔になった。

「お怪我はありませんか?」

その一言で、少し肩の力が抜けた。

大げさだと言われなかった。

気にしすぎだと笑われなかった。

駅員さんが周囲を確認すると、例の男の人は急に目をそらした。

さっきまでの強気な態度が、嘘みたいに消えていた。

駅員さんが声をかけると、彼は慌てて言った。

「いや、ただ座っただけです」

私はスマホの画面を見せた。

「このくらい空いていました」

「その状態で、何度も身体が当たりました」

男の人は黙った。

駅員さんは落ち着いた声で言った。

「空席が多い状況で、他のお客様が不安に感じる距離の取り方は避けてください」

その人は小さくうなずいた。

さっき私を睨んでいた時の勢いは、もうどこにもなかった。

私は次の電車を待つことにした。

ホームに入ってきた次の車両も、やっぱり空いていた。

私は今度、広い座席の端に座った。

隣には誰もいない。

ただそれだけのことなのに、やっと呼吸が戻った気がした。

あの時、黙って我慢していたら、きっと私はずっとモヤモヤしたままだったと思う。

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でも、避けるだけで終わらせなかった。

ちゃんと「不安でした」と伝えた。

それだけで、相手の態度も、その場の空気も変わった。

電車の席は、早い者勝ちかもしれない。

でも、相手の距離感まで勝手に奪っていいわけじゃない。

空いている車内で、わざわざ人の隣に座り、肘を当て、荷物を広げる。

それを「ただ座っただけ」で済ませる人には、ちゃんと線を引いていい。

私はもう、誰かの無神経さのために、自分だけが我慢するつもりはない。

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