封筒を開けた瞬間、指先が冷たくなった。
差出人は奈良県警察署。
中に入っていたのは、速度違反の出頭通知だった。
「……オービス?」
紙には、一般道路で速度違反を確認したため、指定日に出頭するようにと書かれていた。
時間は夜の九時から十時の間。
場所にも見覚えがあるような、ないような。
私はその場でスマホを握ったまま固まった。
一般道路でオービス。
それって、もしかして三十キロ以上オーバー?
ネットで調べるほど、胃の奥が重くなった。
罰金十万円前後、点数、免停の可能性。
文字を追えば追うほど、頭の中が真っ白になった。
そこへ妻がやってきて、通知書を見た瞬間、顔色を変えた。
「なにこれ、あなた何したの?」
私は慌てて言った。
「いや、待って。たぶん何かの間違いだと思う」
でも、紙は本物だった。
警察署の名前もある。
出頭日時も書いてある。
妻はため息をついた。
「最近、運転荒いって言ったよね?」
その一言で、胸の奥がズンと沈んだ。
私だって、絶対に自分じゃないと言い切れる自信がその時はなかった。
けれど、どうしても引っかかっていた。
その時間、私は本当にその道を走ったのか。
記憶をたどっても、どうにも噛み合わない。
しかもその日は、親戚に車を貸した日だった気がする。
私はすぐに車へ行き、ドライブレコーダーのSDカードを抜いた。
妻は後ろから冷たい声で言った。
「今さら確認しても、撮られてるなら同じでしょ」
私は答えなかった。
怒鳴り返したい気持ちもあった。
でも、ここで感情的になったら、ただの言い訳に見えるだけだ。
私はパソコンを開き、通知書に書かれた時間帯の映像を探した。
動画を再生した瞬間、車内から聞こえてきた声に、私は思わず手を止めた。
それは私の声ではなかった。
ハンドルを握っていたのは、その日「ちょっとだけ借りる」と言って車を持っていった親戚だった。
しかも映像には、はっきりと会話まで残っていた。
「この道、空いてるな」
「少し飛ばしても大丈夫だろ」
その声を聞いた瞬間、背中に冷たいものが走った。
私はさらにスマホの位置情報を確認した。
同じ時間、私のスマホは自宅近くのスーパーにあった。
レシートも残っていた。
支払い時間も、通知書の時間帯と重なっていた。
つまり、私がその道路を走っていた可能性はほぼなかった。
私は証拠を全部まとめた。
ドライブレコーダーの映像。
スマホの位置情報。
スーパーのレシート。
そして、親戚から来ていた「車ちょっと借りるわ」というメッセージ。
翌日、親戚に連絡した。
「この日、この時間、車を運転してたよね?」
すると彼は、少し間を置いてから言った。
「え?覚えてないな」
その瞬間、私は完全に腹が決まった。
覚えていない?
人の車を借りて、オービスに撮られて、通知がこっちに来ているのに?
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