予約したカーシェアの車を取りに行った瞬間、私は思わず足を止めた。
「……これ、本当に使える車?」
アプリには、たしかに「利用可能」と表示されていた。
予約時間も合っている。
車種もナンバーも合っている。
でも目の前の車は、どう見ても“普通に使える状態”ではなかった。
フロント部分は大きく割れ、バンパーはずれ、ナンバープレートも歪んでいる。
車の下には破片のようなものまで落ちていた。
私は一瞬、自分が間違った駐車場に来たのかと思った。
でも足元には、はっきり「Times CAR SHARE」の表示。
間違いなく、私が予約した車だった。
私はすぐにアプリの画面をスクショした。
「車両状態:利用可能」
その文字が、今の状況とあまりにも合っていなかった。
すぐにサポートへ電話した。
「予約した車が、かなり大きく破損しています」
オペレーターは最初、軽い擦り傷くらいだと思ったのか、落ち着いた声で確認してきた。
「どのあたりの損傷でしょうか?」
私は車の前に立って、言った。
「前です。車頭が割れています。バンパーも外れかけています。これ、走らせたら危ないと思います」
電話の向こうが一瞬、静かになった。
私はその場で写真を撮った。
車の正面。
割れた部分。
落ちている破片。
歪んだナンバー。
駐車位置。
車位番号。
アプリの予約画面。
時刻が分かるように、スマホ画面も一緒に残した。
しばらくして、サポートから言われた。
「確認したところ、直前の利用者が先ほど返却を完了しています」
私は思わず聞き返した。
「この状態で、ですか?」
しかもさらに驚いたのは、その直前の利用者と連絡がついた後だった。
相手は電話口でこう言ったらしい。
「いや、ちゃんと返却しましたよ」
「車も元の場所に戻しました」
「返却処理も完了してます」
私はその言葉を聞いて、逆に冷静になった。
車を元の場所に戻したら、事故までなかったことになるのか。
返却ボタンを押したら、割れたバンパーが元に戻るのか。
さらに相手は、信じられないことまで言い出した。
「次の人が何かしたんじゃないですか?」
つまり、私が疑われているということだった。
私はまだ車のロックすら解除していない。
ドアにも触っていない。
ただ予約車の前に立って、破損に気づいただけ。
それなのに、相手は自分の責任を避けるために、私にまで火の粉を飛ばそうとしていた。
私はサポートに言った。
「私はまだ車を解錠していません」
「到着してすぐ、この状態を確認して連絡しています」
「写真も全部あります」
サポートは、さらに詳しく調査すると言った。
私はその場から動かなかった。
雨が降っていて、地面は濡れていた。
でも、破片の位置や車の状態が変わる前に、全部残しておきたかった。
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