夫の不貞が分かった時点で、私はもう十分すぎるほど傷ついていました。
それでも、子どものこともある。
感情だけで動かず、弁護士に相談しながら、一つずつ証拠を整理していました。
そんなある日、実家の父から連絡が来ました。
「変な手紙が届いてる」
嫌な予感がしました。
父が送ってきた写真を見た瞬間、私は言葉を失いました。
差出人は、夫の母親。
しかも、法人ロゴ入りの封筒。
中に入っていたのは、私への悪口を並べたような怪文書でした。
そこには、信じられない言葉が並んでいました。
「これ以上、息子を気づけないでください」
「お宅のお嬢様は、電話はしたくない、ただメールばかり」
「何百万ものお金を支払え、支払えと?」
「ご飯も作らない」
「洗濯もしない」
「掃除もしない」
「ただお金が欲しくて海外に行くだけ」
読めば読むほど、手が震えました。
何を言っているのか、本当に意味が分かりませんでした。
不貞をしたのは、彼女の息子です。
家庭を壊したのも、彼女の息子です。
さらに許せなかったのは、子どもに対する無断のDNA検査の件までありました。
そこまでしておきながら、そのことには一切触れない。
代わりに、私を「金だけ欲しがる女」「家事もしない女」「息子を苦しめる女」として、私の父に送りつけてきたのです。
しかも最後には、こう書かれていました。
「早急に離婚届を提出してください」
私は一瞬、怒りでその紙を破りたくなりました。
けれど、すぐに手を止めました。
ここで感情的になったら、相手の思うつぼです。
私は父に言いました。
「その封筒、絶対に捨てないで」
父は静かに答えました。
「分かってる。これは証拠になるんじゃないか」
その一言で、私は少し冷静になりました。
そうだ。
これはただの嫌がらせではない。
私本人ではなく、わざわざ私の父へ送ってきた書面。
内容は事実無根の中傷。
しかも法人ロゴ入りの封筒。
私はすぐに、封筒、消印、本文、すべてを写真に撮りました。
折り目も、文字も、宛名も、全部。
そして、そのまま弁護士に送りました。
「この手紙、精神的苦痛や悪質な干渉の補強材料になりますか?」
しばらくして、弁護士から返事が来ました。
その一文を見た瞬間、私は思わず声に出して笑ってしまいました。
「これは相手方に有利なものではありません。
むしろ、こちらに有利に使える可能性があります」
義母は、私を追い詰めるつもりだったのでしょう。
父を巻き込んで、私を孤立させるつもりだったのかもしれません。
でも結果は逆でした。
父は私の味方になり、弁護士はこの手紙を資料として整理してくれました。
後日、慰謝料の話し合いの場で、相手側はまた被害者のような顔をしていました。
「こちらも精神的に苦しんでいる」
「家庭内の事情があった」
「一方的に責められるのは違う」
そんな言葉が並びました。
私は黙っていました。
言い返したいことは山ほどありました。
でも、言葉より強いものがありました。
証拠です。
弁護士が静かに、その怪文書を出しました。
「こちらは、相手方の母親から、依頼者の父親宛に送られた書面です」
空気が止まりました。
相手側の表情が変わりました。
さっきまで余裕を見せていた夫も、義母の名前が出た瞬間、目をそらしました。
弁護士は続けました。
「不貞行為の事実や、子どもへの対応についての問題を棚に上げ、依頼者を一方的に侮辱する内容です。ご家族を巻き込んだ精神的負担も、こちらとしては重く見ています」
相手側は、しばらく何も言えませんでした。
義母が私を攻撃するために書いたはずの手紙。
それが今、相手側の悪質さを示す材料として、目の前に置かれていました。
その瞬間、胸の奥がスッとしました。
私は泣きませんでした。
怒鳴りもしませんでした。
ただ、思いました。
よくぞ書いてくれた。
よくぞ送ってくれた。
こちらがお願いしたわけでもないのに、相手が自分たちの異常さを白い紙に残してくれたのです。
帰宅後、父に連絡しました。
「お父さん、あの手紙、ちゃんと役に立ったよ」
父は少し笑って言いました。
「向こうは脅したつもりだったんだろうな」
本当にその通りでした。
義母は、私を黙らせるつもりで送ったのでしょう。
でも私は黙りません。
むしろ、あの一通で完全に覚悟が決まりました。
不貞も。
無断DNA検査も。
家族への嫌がらせも。
全部、きちんと整理して請求します。
人を傷つけるために書いた言葉は、最後には自分たちに返ってくる。
義母が送ってきた怪文書は、私を潰すどころか、私の慰謝料請求を後押しする一枚になりました。