「お願いです。受験が終わるまで、そちらのお子さんがうちの子に関わらないようにしてください」
そのLINEを見た瞬間、私は手が冷たくなりました。
送り主は、息子の友達・ゆうじ君のお母さんでした。
文面はとても丁寧でした。
でも、読めば読むほど胸がざわつきました。
「うちは今、大学受験を控えた非常に大切な時期です」
「そちらのお子さんが毎日のように誘ってくるせいで、息子の集中力が削られています」
「受験勉強の大きな邪魔になっています」
つまり、ゆうじ君が勉強に集中できないのは、うちの息子のせい。
そう言われているのと同じでした。
私はしばらくスマホを握ったまま、動けませんでした。
うちの息子も受験生です。
同じように毎日不安を抱えながら、机に向かっています。
それなのに、まるでうちの子だけが軽い気持ちで相手を遊びに誘っているような書き方でした。
けれど、感情的に返すのは違うと思いました。
私は一度深呼吸して、丁寧に返信しました。
「ご連絡ありがとうございます。こちらの配慮が足りず、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。息子に確認いたします」
送信したあと、私はすぐに息子を呼びました。
「ねえ、最近ゆうじ君と何してるの?」
息子は一瞬、表情を曇らせました。
「……どうしたの?」
私はLINEの内容を見せました。
息子は黙って読みました。
そして、しばらくしてから小さな声で言いました。
「俺、誘ってないよ」
「じゃあ、毎日うちに来てたのは?」
「ゆうじが来たいって言うんだよ」
私は思わず聞き返しました。
「遊びに?」
すると息子は首を横に振りました。
「違う。あいつ、家に帰りたくないんだよ」
その言葉で、空気が変わりました。
息子は机の上に置いてあったノートを持ってきました。
そこには、二人で作った勉強計画がびっしり書かれていました。
数学の過去問。
英語長文。
古文単語。
小テストの点数。
間違えた問題のやり直し。
遊びどころか、かなり真面目な内容でした。
さらに息子は、スマホのトーク画面を私に見せました。
そこには、ゆうじ君からのメッセージが何件も残っていました。
「今日も行っていい?」
「家だと母さんがずっとピリピリしてて無理」
「また点数で怒られた」
「お前の家だと落ち着いて勉強できる」
「数学、昨日のところもう一回教えて」
私は言葉を失いました。
うちの息子は、友達を遊びに誘っていたのではありませんでした。
むしろ、自分の受験勉強の時間を削って、ゆうじ君の勉強を見ていたのです。
「なんで言わなかったの?」
私がそう聞くと、息子は少し困ったように笑いました。
「言ったら、ゆうじが怒られると思ったから」
その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられました。
私は息子を責めるつもりで呼んだ自分が、恥ずかしくなりました。
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