「態度が悪いから、どかない」
その一言を聞いた瞬間、私は本気で自分が乗る新幹線を間違えたのかと思った。
発車まで、あと少し。
私は荷物を持って、指定された座席まで急いでいた。
車内はすでに混み始めていて、通路には乗客が次々と流れ込んでくる。
やっと自分の席に着いた。
……はずだった。
でも、そこには知らない男性が座っていた。
しかも、まるで最初から自分の席みたいな顔で。
背もたれに深く寄りかかって、スマホを見て、足元には荷物まで置いている。
私は一度、座席番号を確認した。
車両番号も合っている。
列も合っている。
座席番号も、間違いなく私の電子チケットと同じ。
だから私は、できるだけ普通の声で言った。
「すみません、そこ、私の指定席なんですが」
怒ったわけでもない。
強い言い方をしたつもりもない。
ただ、事実を伝えただけ。
すると男性は、ゆっくり顔を上げた。
そして、私を上から下まで見るようにして、鼻で笑った。
「その言い方、感じ悪いね」
私は一瞬、意味が分からなかった。
「……え?」
男性は、さらに座席に深く座り直した。
「態度ってあるだろ。
人にお願いする態度」
そして、信じられない言葉を続けた。
「だから、今はどかない」
いやいやいや。
お願い?
これはお願いじゃない。
私が買った指定席に、あなたが座っているだけなんですけど。
心の中でそう叫んだ。
でも、通路にはどんどん人が詰まってくる。
私が立ち止まっているせいで、後ろの流れも止まり始めた。
すると後ろから声が飛んだ。
「ちょっと、通路塞がないでください」
事情を知らない人からすれば、私が邪魔をしているように見えるのかもしれない。
その空気を見て、男性はニヤッと笑った。
「ほら。迷惑かけてるじゃん」
そして、わざと周囲に聞こえるような声で言った。
「公共の場なんだからさ、そんな怒った顔で騒がないでよ」
一気に胸の奥が熱くなった。
え、私が騒いでることになってる?
私の席に座っているのはあなたで、通路を止めている原因もあなたなのに?
さらに横の方から、事情を知らない別の乗客が小さく言った。
「席くらいで揉めなくても……」
その言葉で、私は逆に冷静になった。
ああ、これは感情的に言い返したら負けだ。
この人は、自分が悪いのに、周りの目を使って私を“面倒な人”に見せようとしている。
だったら、私がやることは一つ。
事実だけを出す。
私はスマホを取り出した。
電子チケットの画面を開く。
車両番号。
座席番号。
乗車区間。
全部はっきり表示されている。
私はその画面を男性の目の前に向けた。
「ここ、私の指定席です」
男性の目が、一瞬だけ止まった。
でも、すぐに肩をすくめた。
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