「……え? なんで前の座席、横向いてるの?」
新幹線に乗ってしばらくしてから、私は前の席を見て思わず固まった。
普通、新幹線の座席って進行方向を向いている。
でも、目の前の四席だけが、なぜか窓の方を向いていた。
しかもそこに、男性たちが普通に座っている。
景色を眺めながらスマホで写真を撮り、
「いい感じじゃん」
なんて笑っていた。
最初は、私の見間違いかと思った。
でも違った。
前の四席が全部、横向きに回されていた。
本来なら向かい合わせにするために回転できる座席を、中途半端な横向きのまま使っている。
私は思わず眉をひそめた。
いや、それ危なくない?
新幹線の座席は回転できるけれど、横向きの状態で固定するものではない。
もし急ブレーキがかかったら、座席ごと動く可能性がある。
荷物も人も、思わぬ方向に揺れる。
自分たちだけの問題じゃない。
周りにも危ない。
そう思って周囲を見ると、他の乗客も気づいているようだった。
ちらちら見ている人がいる。
でも誰も声をかけない。
分かる。
トラブルになりたくない。
新幹線の中で揉めたくない。
私も正直、声をかけるか迷った。
でも、その座席のすぐ後ろに座っているのは私だった。
もし本当に何かあったら、一番近くで巻き込まれる。
そう考えた瞬間、黙っている方が怖くなった。
私は少し息を吸って、前の男性に声をかけた。
「すみません」
男性が振り返る。
私は座席を指差して言った。
「その向き、ちょっと危ないと思いますよ。固定できないので」
できるだけ普通の声で言った。
怒ったつもりはない。
注意というより、知らせたつもりだった。
でも、返ってきた反応は最悪だった。
男性は一瞬だけ私を見て、隣の仲間と顔を見合わせた。
そして小さく笑った。
「何言ってんの、この人」
その一言で、胸の奥がカッと熱くなった。
は?
こっちは危ないから言ってるだけなんだけど。
すると別の男性も笑いながら言った。
「空いてるじゃん」
「別にいいでしょ」
「景色見てるだけだし」
完全に、こちらを面倒な人扱いしている。
私はもう一度言った。
「空いてるかどうかじゃなくて、固定できない状態が危ないんです」
すると男性はスマホを持ったまま、
「気にしすぎ」
と鼻で笑った。
その瞬間、私の中で完全にスイッチが入った。
ああ、この人たち、話を聞く気がないんだ。
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